第29章 未来へ
*信長目線*
秀吉に、鷹狩りをしてくると言って城を出た朝。
琵琶湖へ向かうと行ったものの行く気になれず、途中で足を止めてしまった。
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*秀吉目線*
夜明け前ーーー。
秀吉「琵琶湖へ鷹狩り……? 舞の見送りはされないのですか?」
信長「あぁ。出ていく者を追う趣味は無い。」
秀吉「ですが信………!」
信長の表情を見て秀吉は何も言えなくなってしまった。いつも無表情か冷酷な笑みしか見せない主が、何かを喪ったような顔をしている。
(あぁ……お市様の時と同じ………)
秀吉「…わかり、ました………私は行ってまいります。宜しいですか?」
信長「あぁ、好きにしろ。」
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あの時秀吉は何か言いかけたが、やめた。
(大方、舞を気に入っていたのにとかそういう事だろう。)
舞に会う前に城を出たのは自分のためだ。
(会ったら…引き留めてしまう。今度こそ。)
俺の人生に舞を巻き込むわけにはいかない。
何度も何度も己に言い聞かせた。
しかし足は目的の山には進まず、街の外れの丘で佇んだまま。
(もう安土を経った頃か……)
もう会えないと思えば思うほど。
会ってはいけないと思うほど。
己の足と、心は山とは逆の方向へ動いていく。
ゆっくりと、ゆっくりと進む足は
どんどん速くなり、
やがて
舞が使うであろう道へと全速で馬を走らせる。
会ってどうしたいのかもわからない。
…そもそももう通り過ぎているかもしれぬ。
だが、最後だと思えば思うほど
今まで抑えてきた感情が、
理性とは無関係に身体を進め、
理性すら蝕んでいく。
そして本心。
一度だけ、
一目見るだけでもいい。
逢いたい。
その一心で馬を走らせ、町を越え山を越え、京へ向かった。