第22章 初陣(4)*信長目線*
天下人となった自分をここまで揺さぶる女も、そういないだろう。
だからこそ……
(こやつをこれ以上、そばに置くわけにはいかない。)
そう、強く思う。
(こやつは、こやつの言っていた、戦のない平和で自由な日ノ本へ戻り、のうのうと生きてその寿命を全うするべきだ。)
不思議だ。
これまで欲しいものは必ずその手中に収めてきたというのに、
舞を欲しがれば欲しがるほど、元の世へ返したいという感情も強くなるのだ。
『お兄様、人を愛するってある意味では自分よりもその人をとるってことだと思うの。二十五…私の人生分くらい歳が離れていても、例えこの愛情が親子のような情であったとしても私はこの人を確かに愛している…だから私はこの人と逝きます。』
かつて妹を喪った時の言葉が蘇る。
認めるより先に否応なしに自覚する。
俺は舞を……
三成「………様、信長様。」
三成の声ではっと思考が途切れる。
見ると三成は碁石を打ち終わったようだ。
信長「っ…あぁ。」
生返事で答え、目の前の碁盤を見つめる。
三成が知らない以上、恐らくこいつは舞を戻さないだろう。
何としてもこの勝負、負けられない。
三成「あの、さっき仰っていたのはどういう意味でしょうか…?」
信長「舞は………戦が終わったら急ぎ帰らせるつもりだ。」
三成「そう…なのですか………」
三成はそれを聞いて明らかに動揺し、落胆している。
(気持ちは分からなくもない、がな……)
その後はあからさまに不調になってしまった三成に容赦なく碁石を打ち続けた結果、俺は圧勝した。