第16章 初陣 〜前日譚〜
ーーーーーーしかし
私にその手が触れることはなかった。
「…っ………………?」
信長様の手は私の胸元で
指を指すように止まっている。
触れるか触れないかの距離で
じわりと身体が熱くなる。
信長「今宵は貴様の心ノ臓を奪うとする。」
「え……?」
困惑し聞き返すと
信長様は初めて
その瞳に優しさをにじませて言った。
信長「だから、…貴様は俺の許可なしに勝手に死ぬな。そして死ぬまで俺に幸いを運び続けろ。良いな。」
「っ……は、い…」
信長様のその言葉は命令のようでいて
懇願のようにも聞こえる奇妙なものだった。
(信長様は過去に何か………?)
信長「明日は早い。もう下がってゆっくり身体を休ませろ。」
「……ありがとうございます。そうさせていただきます。」
そう言って部屋を出る直前、
なんとなく気にかかり
信長様の方を振り返ると、
信長様はじっとこちらを見ていた。
「……あの…?」
信長「…貴様は、未来から来たと言っていたな。」
その一言にぎくりとなってしまう。
だって私は知っているから。
この先の未来も、みんなの死も。
歴史が既に変わっていても、
大筋は変わらないはずだ。
中高と歴史マンガやゲームにハマって、
特に戦国時代と江戸時代は細かい知識を持っていた。
長い間忘れていたが落ち着いてきて思い出してきたのだ。
「………はい」
信長「……未来の世は、貴様にとって心地よかったか?」
「……戦が、無いですからね。」
戦のない、平和な世を想い答える。
信長「……そうか。良い、下がれ。」
「おやすみなさい。」
信長様の突然の質問にどこか引っ掛かりを覚えながら私は部屋まで戻り
来るべき明日に備えて眠りについた。