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神は強欲

第1章 *




決定的な言葉を浴びせ、ねめつけるように大倶利伽羅は彼女を見やる。一切の感情が読み取れないその瞳から少しでも本音を引き出そうとする大倶利伽羅に、相変わらずどこか一線を引いた様子で彼を見返す女。話の筋が見えたことで大倶利伽羅と同じく彼女を見つめる三人。異様な空気に包まれたのち、小さく肩を竦めてから観念したように彼女は呟いた。

「別に喧嘩を売りに来たわけでも、評判を貶めるためでも、あなた方を蔑みに来たわけでもありません」
「……」
「私がここにきたのは、『百合艶』の花魁たちと、楼主に頼まれたからです」
「頼まれた?」

聞き返したのは鶴丸国永だった。言葉の意味が分かりかねると言った様子の彼に、彼女は一つ頷く。話は至極単純なものだった。近年業績を著しく伸ばしている『桜』に、『百合艶』は大きく関心を寄せていた。相手をする客の性別は変われど、同じ吉原で妓楼と営むことに変わりはない。『百合艶』や常の吉原とはまた違う格式を重んじる『桜』だが、そこに新たな刺激を受けたいとのことだった。しかし、楼主や妓楼の商品である花魁達は間違っても同じ廓遊びに身を投じることは許されない。そこで白羽の矢が立ったのが、最近『百合艶』で髪結い師を務めるようになった彼女だ。『百合艶』の楼主も彼女にはひときわ大きな信頼を寄せていて、どうかその眼で一度『桜』を見て来てほしいと頼み込んだ。当然いい顔は出来なかったが、楼主自らの頼みとあっては断れない上に、花魁達もわくわくと待っている。そうして得た『桜』流の格式を軸に、新たな『百合艶』の軸を作っていきたい。そんないきさつがあったため、気は進まなくとも今日此処に赴いたのだと彼女は告げた。

いくら楼主に頼まれたとはいえ、彼女自身が望んで男娼を侍らせているわけではない。だからこそ彼女の名前では今日の指名をとらず、吉原として裏を合わせながら4人の男娼とひと時を過ごすことだけで何とか納得してもらったのだ。当然『桜』の楼主は全て承知の上であるし、歓迎もしてくれていた。しかしそれを男娼たちに話すのは、それこそ野暮だろう。

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