第1章 *
「あんた、やるじゃない!アタシ、朱色の髪紐なんて使ったの初めてだよ!」
「そうでしたか。差し出がましいようですが、貴方には寒色より暖色の方が似合う気がしたので。お気に召しましたか?」
「とっても!今の時期じゃ暑苦しく感じるかと思ったけど、案外そうでもないもんだね」
「よくお似合いです」
きゃっきゃとはしゃぐ次郎太刀を見て、初めて彼女の顔が綻ぶ。花が咲くような小さな微笑みだったが、たった一瞬のことだったが、あどけないその笑顔に次は違う意味で空気が固まった。当の本人は息を飲んだ彼らを見回し首を傾げているが、櫛と手鏡を戻したところで、今まで一度も口を開かなかった大倶利伽羅に尋ねられる。
「アンタ、髪結い師か」
訪ねるというよりは殆ど確信に近い声色で告げられたその言葉に、彼女は臆するでもなく頷いた。どうりで手際が良く手馴れているわけだと納得する鶴丸国永達を余所に、大倶利伽羅は続ける。
「『百合艶』は、近頃ますます客足が途絶えないそうだな」
「……大倶利伽羅?」
いきなり突拍子もないことを言い出した大倶利伽羅を、鶴丸国永は怪訝そうに見つめる。一期一振も次郎太刀もそれは同じで、しかし彼女だけは真っ直ぐに大倶利伽羅の目を見つめていた。その視線を見つめ返しながら、大倶利伽羅は更に続ける。
「なんでも、最近は女郎たちが目に見えて垢抜けてきたと評判らしい。着物も、化粧も―――髪形も、今までとは一風変わった斬新なものになったとか」
「……」
「聞けば、専属の髪結い師をつけたという話だ。―――『百合艶』の髪結い師が、わざわざうちに何の用だ」