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神は強欲

第1章 *




「しかし、此処は初めてなんだろう?正直きみみたいな客は珍しくもないが…纏う雰囲気は随分珍しいな」
「?」
「此処に来る客は、束の間の夢を見に来るのさ。一瞬の夢は儚いが、人の夢とはそういうものだ」
「はぁ」
「だが、きみは先程からちっとも酒を飲まないし、楽しんでいる様子も夢を見ている様子もない。何か不満か?」

訝しむように顔を覗き込む鶴丸国永に、女は一瞬瞠目した。そしてさっと辺りを見回すと、皆同じようにどこか怪しむように彼女を見ているのだ。不審な人間と思われてもおかしくない振る舞いをしてしまったかと内心ひやりとするが、至近距離で自らの瞳を覗き込む鶴丸国永に、仕方がないと嘆息する。重々しく口を開き、言葉を発しようとしたところで。

「あ」

鶴丸国永でも彼女でもない、第三者の声が上がった。そちらへ視線を向けてみると、訝しむようにしながらも浴びるように酒を飲んでいた次郎太刀がバツが悪そうに視線を逸らす。先程と違うのは、高い位置で結わえてあった黒髪がしどけなく肩に流れ落ちている点だった。どうやら結わえていた髪紐が切れてしまったようで、四苦八苦しながら必死に自分で結わえようとしている。しかしなかなか上手くいかない様で、次第に諦めたように一期一振へと声を掛けた。

「ねえ、乱を呼んでくれないかい? まったく、今日の髪結い師は新人でね、結びが雑だったみたいだ」

ぶつくさと文句を垂れながらも、一室の視線を一気に集めてしまった決まり悪さから、困ったように頬をかく次郎太刀。一期一振も心得たように一つ頷き、閉まっていた襖へと手を掛けようと腰を浮かせた。そこで。

「待ってください」

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