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神は強欲

第1章 *




「な、きみ…!?」
「……女性、だったのですね」

今の今まで年端もいかぬ少年だと思っていたその人物は、紛れもなく若い女だった。まだ顔の上半分には眼鏡をかけているが、それすらも取っ払われてしまえば間違えるはずもない。髪こそ長くはないが、どこか危うげな雰囲気を醸し出す女がそこにいた。

「すみません。騙すつもりはなかったのですが、こういったところは初めてでして。何分、勝手が分からず…」

申し訳なさそうに告げられるその声も、男ではありえない。ますます俯く彼女に両隣の彼らは目を瞠ったが、白い男がからりと笑って見せた。

「なに、気にするな!俺達が勝手に勘違いをしただけだ」
「ええ、寧ろあらぬ誤解をしてしまい、詫びるのは此方の方です。どうか気に病まれるな」

安心させるように微笑む水色の男も続けたことで、場の空気が少しばかり落ち着いたものとなる。ほっと息を吐いた女に、彼らはそれぞれ自分の名前を告げた。「鶴丸国永」と「一期一振」それが彼らの名だ。恐らく源氏名だろうが、『桜』ではその名前も一つの楽しみであるらしい。彼らには、決まって刀の名前がついている。それはこうして座敷で客をもてなす男娼も、その男娼へ付き従う禿(かむろ)も、皆すべて同様に。少し離れた席でこちらを伺う「次郎太刀」も、興味がなさそうに酒を煽る「大倶利伽羅」も、皆名前は刀から取られている。それがここ『桜』流の廓遊びなのだ。


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