第1章 *
にこやかに挨拶をする楼主を経て、一つの座敷へ通される。既にそこには幾人かが待ち構えていて、入ってきた人間を見るなり全員が目を見開いた。襖を閉められ所在なさげに立ち尽くす人は、居心地が悪そうにしながらも室内をぐるりと見回す。なるほど、これは世の女性が魅了されるわけだと一つ納得しながら、進められた座布団へと腰を下ろした。
「こりゃ驚いた!こんな年端もいかない少年が、今日の俺達の客かい?」
言葉こそ揶揄るようだったが、そこには純粋に驚愕の意が込められているだけだった。言葉尻から分かる通り、彼は男。そう、ここは男遊郭。吉原では外れに位置するこの一帯は、妓楼は妓楼でも女をもてなす男娼達の住む世界だ。その中でも『桜』は、一風変わったしきたりや掟を持つ妓楼としても有名だった。もちろん男娼達は巷では目にかかれないほどの美丈夫ばかりであるが、ここでは吉原の規則や規律は通用しない。『桜』独自の規則があるらしく、それがまた客の足を途絶えさせない理由でもあった。
しかし、今日ここに出向いた人は気乗りしない様子。落ち着かなさそうに座布団に座ったまま、視線は俯き加減だ。入ってきた意外過ぎる人物に初めは物珍しそうに空気が波打っていたが、男色家もさして珍しくないこの頃だと腑に落ちればそれなりの持て成しをしてくれるのだろう、先程大げさなほど驚いていた男がその人の隣へ腰を下ろした。
「なあ、きみ。せっかくうまい酒があるんだ。そんな布は野暮ってもんだろう?」
「顔を晒せない理由があるのであれば無理強いは致しませんが…お顔を拝見しても?」
右隣に、白い男。左隣に、水色の男。片や面白おかしく此方を伺い、片やおずおずと手負いの猫を手懐けるように言葉を出す。彼らに両隣を固められたその人は小さく嘆息して、静かに口布をぐいっと喉元まで下げた。
「大丈夫だ。どんな醜い傷があっても、例えきみが酷い醜男であっても、そんなことで俺達は君を蔑んだりは―――」
白い男が調子良くつらつらと言葉を放っていたが、みるみるうちに露わになるそのかんばせに途中で言葉はどこかへ逃げ去ってしまったらしかった。そして、次いで響くは驚愕の声。