第1章 rain of lust
「・・・・・」
「ほら・・・飲めよ」
「っ・・・ありが、と・・」
名無しはほんの少しだけ、その場を制したのがナッシュだったことに驚きと、また同時に喜びも感じていた。
それには、全く知らない人よりは、知っている人に救われたという意味合いが込められていたのだが、気になったのはどうして彼が偶々居合わせたのかということ。
気にならない方がおかしいと思ったし、場の雰囲気に任せて勢いで追求しても、一度は濁されたことが彼女の胸のあたりをむず痒くさせる。
結局、よく使う駅と街・・・そんな答えを返されてはそれ以上問いようもなくて、名無しはしまったという気持ちを抱いた。
数日会っていなかったから、肌恋しさに、もしかして何処かで機を計ってくれたのではないか・・・そう淡く持った期待が、彼女の眉間に皺を作った。
「・・・・・・」
加えて名無しは、ナッシュが近くのショップに飲み物を買いに行ったことにも驚いていた。
落ちたカップをだるそうに拾い上げる仕草もまた、彼らしくないとしみじみ感じる。
飲み物を欲していることを見透かしていたのなら、やはり何処かで見ていたんじゃないかと思えてどうしようもなかったのだ。
溺れているのは自分だけ・・・こんな憶測、考えたくもなかったけれど。