第1章 その半生
教師は慌てて近寄っていって、いじめっ子をこんちゃんから離そうとした。
しかし彼は頑として動こうとしなかった。
そうしている間にもこんちゃんは悶え続けている。
「がががっがっががががっ」
危なげな痙攣をしつつも耳が生え尻尾も出て、すわ変身も終わりかと思いきや。
「きゃぉおーーん!」
すでに変わった声帯から狐のような鳴き声をあげ、体を丸めて震えている。
まだ人間のままの内臓が変わり出したようで、低い唸り声が漏れ聞こえる。
「ゔゔゔゔあゔぅ」
「お、おい。大丈夫か?保健室運ぶぞ?」
何かせねばという教師の、ピントのずれた気遣いが間違いだった。
彼女を持ち上げようと伸ばした手がこんちゃんの頭に触れた瞬間、弾かれたようにこんちゃんの体が跳ね上がり、教師の手を噛んだ。
「っ痛ッ!」
つう、と彼の血が指を伝い滴り落ちる。
突然の鋭い痛みに驚き、彼は目を見開いた。そして、助けてやろうとした格下に反抗され、ふつふつと涌き出でた怒りに任せてつい怒鳴ってしまう。
「おい!暴れんじゃねえ!」
こんちゃんは、肩で息をする教師を怯えたような目で見ると人間に戻りだした。
また痛みに呻き叫ぶこんちゃんを横目に、それまで黙っていたいじめっ子が口を開いた。
「アホじゃねえの、お前。」
まだ幼い子供にすら冷たい目で見られ、若き教師はようやく自分のした事に気がついた。息を呑み唇を噛み締めると、教室を出ていってしまった。
「オマエも、アホ」
足元で暴れているこんちゃんを見てそう呟くと、彼は席に戻る。
他の児童もハッとして、恐る恐る席に戻っていった。
その後教師はこんちゃんに冷たい態度をとる様になった。
事件発生から数週間後、どういう訳かこんちゃんは地方に引っ越し、必然的に転校してしまったという。