第1章 その半生
「やーい無個性ポンコツでーく!」
こんちゃんの後ろの席で、入学式後1週間と経っていないにも関わらず早速クラスメイトをいじめている少年。授業中なのに後ろを向いて鉛筆でおでこをつつき回している。
いじめられている少年は少しもやり返せずに、情けない声を出しながらされるがままだ。
「ほら爆豪君、前を向こうね。」
ちら、とその光景を認めた若い男教師が軽く注意すると
「うるせーよザコ個性!おれに指図すんじゃねー!」
「だいたいなんでおれ様がこーんなヤツらとおんなじ扱いなんだよ、とくに無個性のヤツらと一緒とかくつじょくてきだぜ!はん!」
「なあデク?もーしわけねーだろー?あっはは!」
いじめっ子はくるりと斜め前を向き、椅子をぎいこぎいこと揺らしながら一気に返答した。
こういう子は無視が1番効くとマニュアルに載っていたのを思い出した教師は授業に戻ったが、馬鹿にされた子供達は黙っていなかった。
「あたしだってすごい個性持ってるんだから!」
「ひでーぞ爆豪!」
「僕の個性見てみろよ!必殺!腕伸ばし!」
「私だって爆豪君にはできない事できるもん。馬鹿にしないで!」
こぞって個性を自慢し始めてしまい、軽い学級崩壊が起きる。
教室のあちらでShoooutこちらでCruuushと効果音が入り乱れ、禁止されている個性の使用が教室外からでも明確に見てとれるような状況に陥ってしまった。
先生はというと、前の方から鎮静しようと奮闘中。
それを見た事の発端の少年は、怒られる事を恐れるどころか、騒ぎを煽りにかかった。
その児童が離れた机に座っていても、個性を発動させていない数少ない真面目な奴がいれば発破をかける。
「お前も見せてみろよ!あ、テメーも個性ねーのか?」
「もちろんあるけど怒られたく無いし」
「んだとこらぁ!この鉛筆折られてーのか?やれよ!」
「わっ、やりますっ!」
我の強そうなおぼっちゃますらこの始末だ。
これでも飽きずにいじめっ子は四方八方を煽りまくる。
彼の周りは、ついには前の席の女児こんちゃんといじめられっ子以外の大体が暴れていた。
少年は特に何もせずボケっとしている女の子が気に食わないらしく、椅子を蹴った。
『ガンッ』
「わあっ!」
蹴られたこんちゃんもたまったものでは無い。よろめいてしまったが、慌ててバランスを取ってサッと振り向いた。