第1章 その半生
無事入園式を終え、園児達が戯れる某幼稚園の春の庭にて。
「へー!スッゲー、狐さん〜!?なってよなってよ!」
「えーあたしも触りたい!やってよこんちゃん!」
わいわいがやがや、幼女‘こんちゃん’の周りに群がる大勢のお友達が個性の発動をせがんでいる。
「ええー、どーしよっかなぁ〜〜」
「みせてみせて!お願ーい」
「俺もおれも、お願ーい」」
まだお馬鹿な幼稚園児こんちゃんは、大事な事が頭から抜けおちていた。
「もー、しょうがないなー。じゃあいくよー?」
「わぁー」
「ごくり……!」
個性を発動してしまうとどうなるかを忘れていたのだ。
「まずは葉っぱを乗せてー 」
たくさんの観客にアドレナリンがドバドバ出ているアホな幼女は、そこいらからもいだ葉を頭頂に乗せ
「えいっ!」
力む。
そう、大事な事とは、変身の過程において壮絶な苦悶を経なければならない事。
それを忘れた者に降りかかるのは、当然地獄だ。
「ぎゃぁあぁああぁあ!!!」
「わあああ!?!?どうしたのぉ!?」
苦痛に悶えはじめたこんちゃんと、それを見て慌てふためく園児達。
「お"お"お"ごあぁぁぁああっっっっ」
「きゃああ!!せんせえーーーっ」
「うえーーん怖いよぉ〜」
一部の子供は走ってその場から離れた。
「どうしたのッ!」
カラカラっと戸を開け、血相を変えた先生が飛び出して来た。
「こんちゃんが!こんちゃんがぁっ!」
「がががががががが」
「あああ、何をしてるのよっ!個性は使っちゃダメって言ったじゃない!」
まるで化け物のような音を出す子供を見てくずおれる先生。そうこうしている間にも園児は逃げ、こんちゃんは咆哮する。
「ががががががががががががが」
「ね、ねえせんせえ、止めてあげられないの?」
とうとうそばにいるのは涙を目一杯溜めてせがむ少年のみになってしまった。
「いやいやいや、無理よ!無理無理!!出来ないわ!」
可哀想なことに、この先生は本日が初仕事の新米。なす術も無く見守ることしか出来ない。