第1章 優しい人 (あんずside)
ーーー誰かが遠くで私を呼んでいる…?
「あ……ず… あん……」
遠すぎて聞こえないなぁ
私の普段の声もこんなものかもしれないなぁ
「あんず……… あんず! 」
えっ、私?
どうしたんだろう…
「あんず!あんず!!!起きろ!!!!」
私は目を覚ました。
どうやら名前を呼ばれていたのは本当だった。
まだまだ重たい瞼をあけると…
「おい!あんず!!何やってんだ!!
探したんだぞ!!!ほら急いで帰っぞ!!」
目の前には晃牙くんの顔が…
近すぎない…?
私が呑気にしているのとは反対に
晃牙くんはとても焦っているように見えた。
「なんでそんなにのんびりしたんだよぅ!?
言っておくけどな、
もうすぐ大雨が降るって予報だからな!?」
なんだって…!?大雨?!
だから彼はこんなにも焦って…
しまったーーー
ココには衣装作りに必要な物しかない、
教室に荷物を取りに行かなければ…
「教室にまだ荷物があるの…」
「はぁ? 何言ってんだ?ここにあんぞ?」
晃牙くんは左手に私のバックを持っていた。
あれ?私持ってきてないよ…ね…?
「とりあえず、雨降る前にあんずん家まで送ってやるからよぅ…
走るぞ!!」
そう言って私のバックを持ったまま、
晃牙くんは私を立たせて、
私の手を握って、走り出した。