第1章 優しい人 (あんずside)
「あんずちゃんみてみて〜♡
これ!新色のサクラ色のリップよぉ〜!
あんずちゃんにお似合いだと思うわぁ♡」
私はお化粧なんて全然しない人で、
ここにきてから、
ライブ前にみんながメイクをしているのを見て、
少しびっくりしたぐらいだ。
みんなに負けた気がした…。
普通の女の子ならそういうの興味あったりするのかな?
「あんずちゃん! これ付けてみない?」
そう言って椅子から離れて、
気がついたら、私の顔の前にとても端正な顔が近づいていた。
「はっ…、なっ…… クソオカマ!
いい加減にしろ!」
「あらあら〜
だから何て言っているのか聞こえないのよ〜♪」
お姉ちゃんはサクラ色のリップを塗ってくれた。
「まぁ♡ やっぱり似合ってるわぁ!
あんずちゃんにぴったりね〜!
すっごくかわいいわよぉ♡」
お姉ちゃんはそう言ってくれた。
なんか、少し照れくさいなぁ…
「……か……じゃねぇの……」
「も〜 今日の晃牙ちゃんは何て言ってるのか全然分からないわぁ〜
素直に かわいい の一言くらい言ってあげたらどうなのよぉ〜」
えっ? 大神くんが私に? かわいい?
なんだかもっと照れてしまう。
誤魔化すように、手で顔を隠してしまった。
お姉ちゃんは私と大神くんを交互に見て、
ニコニコしていた。
「じゃあ、アタシはこれで失礼するわねっ♪
楽しいランチタイムだったわぁ♡」
そう言ってお姉ちゃんはどこかへ言ってしまった。
と、同時に次の授業の予鈴が鳴った。
私も自分の教室に戻らなければ、
「また一緒に、お昼ご飯食べてもいいかな?」
気がついたら大神くんにそう言ってた。
咄嗟に出た言葉にも関わらず、
普段より大きな声で、
自分でもびっくりしたし、
大神くんもびっくりしていた。
「ああ… 構わないぜ…。」
良かった… また一緒に…
お弁当をしまって、
大神くんに「またね」の代わりに手を振って、教室を出た。
大神くんとまた一緒に過ごせると思うと、
とても嬉しくて、午後の授業も頑張れそうだ。