第1章 眠れるリング
『いやー!やっぱり映画の国の映画は凄いな!
期待を裏切らない面白さだったぜ』
ティーガがまだ興奮冷めやらぬままキラキラした目で話す。
サイはウンウンと首を縦に振りながら、目を細め二人を見た。
『みづきも楽しかった?』
「うん。ジェリーはやっぱり素敵な役者さんだなって」
みづきは、映画の国の王子で映画スターのジェラルドを思い、
プライベートとは全く違う役者の顔を感心していた。
『そっか、お前ジェラルドと仲良いんだっけ』
ティーガの声が少し不機嫌になる。
『お腹すいたし、何か食べに行かない?』
サイは気づかないふりをして、ニコニコしたまま提案する。
「うん。そうしよ!ティーガ君何食べた…」
街を見渡しながら、みづきがティーガに話しかけようとしたとき、
通りの向こう側に、馬車から降りてくるリドを見つけた。
綺麗な服装の女性をエスコートしている。
その見た目から、何処かのお姫様なのは明らかだった。
『どうした?みづき、何か食べたいもんでも…』
ティーガはみづきの目線の先を、釣られて追う。
それはサイも同じ事。
「リド…」
みづきの眼に映るリドは、いつもの気ままな感じではなく、
凛とした表情で優雅に振舞っている。
姫の足元を気遣ったり、優しい笑顔を向けたり…と、
普段みづきには見せない顔だった。
まるで、さっきまでの映画で感じたジェラルドへの気持ちのようで…。
『なんだ?!あいつ何してんだ、あんな澄ましやがって!
用事って、デートかよ!?…あ…。いや…』
『ちょっと、ティーガ!』
サイはティーガを鋭く睨みつける。
ティーガの発した〈デート〉という言葉に、
みづきはビックリするくらい、ズキンっと痛んだ。
目からは、みづきも気づかない涙が溢れる。
サイは心配そうにみづき覗き込み、
頬に手を当てると、そっと親指で涙を拭った。
『みづき、大丈夫。
みづきの事は僕たちが守るから』
サイの力のある言葉に、漸くみづきは自分が泣いている事に気づく。
『そうだぞ!みづきの事泣かせるやつなんか、
友達でもなんでもない!』
ティーガは今にもリドを 殴りに行ってしまいそうな勢いだ。