第1章 眠れるリング
ティーガとサイと別れてから、リドはずっと黙ったままだった。
「リド?なんかあった?」
みづきが心配そうに顔を覗き込む。
『何だよ。俺だってたまにはちゃんと…仕事しちゃ…悪いかよ』
「ううん」
苛立ちを隠せないような声でリドに言われ、みづきは胸の奥がズキリと痛んだ。
それ以上は何も聞かず…いや、聞けずに、城までの道を俯きながら歩く。
いつもなら、二人と別れればリドがそっと手を繋いでくれるのだが、
今日はそれもなかった。
ただ、不安に押しつぶされそうな気持ちを隠して、ひたすら歩いていた。
リドも、うっかりキツい言い方になってしまった自分をどうしていいかわからなかった。
みづきがオリブレイトで生活するようになってから、初めて見せる悲しそうな顔をしている。
(明日だけは…気づかれるわけにはいかないんだ…)
今すぐ手を繋いで安心させてあげたいけれど、
少しだけ後ろめたい気持ちが、リドの心を迷わせていた。
何か言わないと…
気持ちだけは焦っていたけれど、時間は無情にも進み、
気づけばもう城門に着いていた。
「部屋まで…送る」
漸く出てきた言葉も、
「大丈夫。少し…庭を散歩したいから」
みづきから出る、力のない言葉に打ち砕かれてしまう。
庭を散歩したい…
みづきがそう言う時は、いつも少し寂しそうな顔をする時。
一緒に…と言っても、いつも断られる。
きっと、ここに一緒にいる事だけが幸せじゃないとわかっている。
ここには、リド以外みづきの身内はいない。
トロイメアにも簡単に帰れない事を知っている。
行き場所のない気持ちを、みづきはいつも一人で越えているのだろう。
前に、執事にお茶を持っていかせたら、胸元の指輪を見ながら泣いていたと聞いた。
ちゃんと聞いた事のない、みづきの心の中を、リドはまだ覗けずにいた。
「わかった。あまり遅くまで外にいるのやめなよ?」
リドは、出来るだけ優しい声でそう言うと、一人城に入った。