第1章 眠れるリング
「はい!」
みづきは慌てて頬を拭うと、
ネックレスをそっとポケットにしまう。
ドアからは返事がないが、人の気配がした。
「どなたですか?」
返事のない誰かに不安そうに声をかける。
すると、ナビがドアに近づいていく。
『姫はそこから動かないで』
その言葉に黙って頷いた。
「あ…」
ナビによって突然開かれたドアの前には、
驚いているリドの姿があった。
『リド王子…』
「リド王子…?」
みづきの目に、気まづそうに俯く緑の髪の王子が映る。
あまり姿を見なかったが、サイやティーガと同じ宝石の国の王子。
「お、お久しぶりです。ご心配をおかけして、申し訳ありませんでした。
まるで他人行儀なみづきの言葉に、リドはなんと言っていいかわからない。
『いや…もう…大丈夫なのか』
やっと絞り出す言葉も、どこかぎこちなかった。
「はい。もう怪我も治りましたから、
明日、出立することになりました」
「明日…?」
その言葉にリドは驚きを隠せない。
『リド王子、どうぞ中へ…』
ナビが入り口で立ったままのリドを中に促す。
「すみません、気がつかなくて!
お茶を淹れますから、どうぞこちらへ…」
「いや、すぐ…戻るから…」
『リド王子。もう今日しかありません。
ちゃんと、向き合って下さい』
ナビがリドだけに聞こえる声で言う。
「あ、あぁ…」
何かコソコソしている二人をみづきは不思議そうに見ていた。
リドが入ってくると、ナビは、
『私はアヴィと話があるので、ちょっと行ってきますね』
そう言い残し出て行った。