第1章 眠れるリング
その日の夜、みんなが去った部屋で、
みづきは一人空を見上げていた。
(明日、ムーンロードが開く…
そうしたら、全てが…きっと終わる…
ううん…違う。きっとここが始まりなんだ)
その夜空には、あまりにも平和な輝きが瞬いていた。
明日から始まる戦いなんて、まるでないかのように、
暗闇に散りばめられた宝石のようだった。
「宝石…」
ふと呟くと、思い出したように胸元のネックレスを外す。
そして、煌めく夜空にそれをかざした。
「とっても綺麗…優しい緑色。
なんだか見ているだけで、元気になるみたい。
まるで……え?」
まるで、誰みたいと思ったんだろう…
みづきはとても不思議な気持ちになった。
その誰かを思い出そうとすると、
心が温かくなると同時に、心臓がギュッと握りつぶされるような気持ちになった。
『姫?』
いつのまにか戻ってきていたナビの声に、
みづきは驚いて振り返る。
『姫!どうなさったのですか!』
ナビが慌ててみづきに駆け寄る。
「え?どうしたの?」
ナビと目線を合わすためにしゃがむと、
白いフワフワの手が、みづきの頬を拭った。
「あ…」
そこで初めて、自分が泣いていたのだと気づく。
「私…」
『姫?大丈夫ですか?』
ナビが心配そうにみづきの顔を覗き込んだ。
「ナビ、私…とても大切な誰かを思い出せないでいる…」
『姫…』
手に握ったネックレスをそっとナビの前に差し出すと、
「この綺麗な緑色の宝石は…きっとその人に似てる…。
見ているだけで優しくなれて、元気になれる…。
でも、思い出そうとすると、心臓が押しつぶされそうに悲しくなるの…」
再びみづきの頬には一筋の涙が落ちる。
ーーコンコンーー
その時、部屋のドアを誰かがノックした。