第1章 眠れるリング
『そろそろ、ムーンロードが開くな…』
アヴィがふと呟いた。
みづきは、ティーカップを置くと、黙って頷く。
『みづき、もう大丈夫か?』
不安そうなアヴィの声に、みづきは笑って見せる。
「私が行かないと。全てはトロイメアで起こっている事。
そうでしょ?ナビ…」
真っ直ぐな目で見つめられ、ナビは力強く頷く。
『姫、ムーンロードは明日の夜開く予定です。
一度、メディ達にも合流しなくては…
明日の朝出発できますか?』
「うん。わかった。
お医者様も、もう問題ないって言ってくれたし…
私ができる事、精一杯やるから」
そう言うと、胸元のリングをギュッと握る。
その時もう一つ輝く緑色の石のついたネックレスがみづきの指に触れた。
「ねぇ…私、全部思い出してるよね?」
見つめられたナビは動揺で瞳が揺れる。
『姫…なにか気になるのですか?』
握っていたリングを離し、緑色の石を優しく触れる。
「なにか…とても大切な事が…。
ううん。そんなはず無いよね。
この世界を救う事以外に大切な事なんてあるわけないんだから」
何かを振り切るように、笑顔を作るみづきの頭を
アヴィは大きな手でクシャクシャと撫でる。
『わからない事を無理やりわかろうとしなくていいんだ。
お前の不安は、俺がいつでも拭ってやる。だから…安心しろ』
アヴィの温かくて大きな手の温もりを感じ、
みづきは照れたように頬を染めた。
「ありがとう。アヴィ。これからも宜しくね」
そう言うと再び温かい紅茶に口をつける。
その様子を、ティーガとサイは遠くから見守っていた。
何を話しているかは聞こえないが、はにかむみづきの顔ははっきりと見えた。
『なぁ…』
『うん…』
二人は目を見合わせ、複雑そうな顔をする。
『俺…ちょっとリドのところに行ってくる!』
そう言うとティーガは部屋を飛び出した。
『ティーガ!』
サイの呼び止める声も間に合わない程の早さで。