第1章 眠れるリング
みづきが目をさましてから10日ほどがたち、
すっかり怪我も治って、日常の生活を取り戻していた。
毎日話す、アヴィやサイとの会話で、色々な事を思い出していき、
もう事故の前と殆ど遜色はなかった。
ただ一つを除けば…。
『今日もリドの奴来てねぇのかよ!』
ティーガが怒りながらサイに言う。
『うん…なんか、公務がって…』
『あいつ、毎日遊んでたくらいなんだから、別に公務とかそんなないだろう?』
サイは、テラスの手すりに寄りかかり、庭でティータイムをしているみづき達を見る。
『やっぱり…みづきが思い出さない事がキツイんじゃないかな…』
『そんなもん、リド次第じゃないか!それで顔出さないなら、ずっと思い出してもらえないだろ?』
みづきは、リドの存在もしっかり思い出していた。
サイやティーガと同じ、宝石の国オリブレイトの第2王子。
三人はとっても仲が良く、ダイヤモンドの乙女を探し続けている。
それだけ。
そう、リドが恋人だった事を思い出してないのだ。
その他のことを完璧に思い出した今、
それだけを思い出さない事などあるのかと医師に聞くと、
〈思い出したくない出来事があるのかもしれない〉
と、返答があった。
この事故のきっかけとも言えるその事実を思い出したくないがために、
脳が忘れさせようとしているのではないかと…。
それを聞いたリドのショックは計り知れなかった。
リドにとってはそれ自体が忘れたい事実で、
それ以来、あまり顔を出さなくなっていたのだ。
『でも、このままじゃ、
次のムーンロードが出来たらみづきは行ってしまいそうだね』
サイが寂しそうに呟く。
『それまでにリドには顔出させねーとな…』
庭で開かれている楽しげなティーパーティーを、
晴れない顔で二人は見守っていた。