第1章 眠れるリング
「俺だって…どうしたらいいかわかんねーんだよ!クソっ!」
テラスの手すりを握り拳で叩くと、リドはそのまま項垂れてしまう。
様子を見ていたナビが、アヴィが去ったテラスへと近づいた。
『リド王子。そんなにご自分を責めないで下さい。
みづき様が知ったら、悲しみますよ』
その声に顔だけナビに向けると、
「今のみづきは、別に俺なんてどうでもいい存在だろ…」
と言った。
『リド王子!なんて事を仰るのですか!
姫が選んだのは、紛れもなく貴方なのです。
その貴方が、こんな事では姫が可哀想すぎます。
もっと、ご自分の気持ちに素直になって下さい』
「気持ちに…素直に?」
リドはナビの言葉に驚いて顔を上げる。
『そうです。そんなやさぐれてる時間があるのなら、
もっと姫様に声をかけてあげて下さい。
自分を思い出してくれって気持ちを伝えたっていいじゃないですか!』
リドは力強いナビの声に圧倒されてしまう。
『貴方が、唯一…姫様を幸せにできるんです。
姫様がそれを望まれたのですから。自信を持って下さい!』
「みづきが…望んだ?
だって、あいつ、俺たちに黙ってお前たちのところに帰ろうとしてたんだろ?」
ムーンロードが開いたら、アヴィたちの元へ帰ることは全く知らなかった事を思い出す。
『それは、姫様が…
戦いの前に少しでもリド王子と…
愛する人と一緒に居たいと願ったからです…』
「戦いの前?」
リドが目を見開く。
『そうです。これから私たちは、トロイメアへ…
ユメクイの根元を絶つためにトロイメアへと行かねばなりません』
次々に繰り出されるナビからの言葉に、リドは整理がつかないでいる。
『全力で私たちは姫様をお守りしますが、
姫様は、きっと守られるだけでは嫌だったんだと思います。
だから、覚悟を決めた。自分がこの世界を救ってみせると。
この世界を救って、誰もが一番大切な人の側で幸せに過ごせるようにと…』
「それって…」
ナビはリドを真っ直ぐ見つめ、頷いて見せる。
『だから、その戦いの前に、貴方に会いに来たのです。
本当に側に居たいと思う貴方の元へ、全てが終わった時にまた戻ってこれるように』
リドはナビの言葉に、これまでのみづきの姿を思い返していた。