第1章 眠れるリング
意識を取り戻してからのみづきは、
目を覚ましてはいつの間にか眠りにつく…を、
繰り返していた。
徐々に、起きている時間が長くなってはいたが、
記憶はまだ曖昧なままだった。
サイとティーガは、記憶を取り戻さないみづきに、
毎回明るく話しかけていた。
みづきも、自分が事故にあったということを聞いてからは、
何故自分に記憶が無いのかがわかったこともあり、
あまり焦るような素ぶりも見せなくなっていた。
ただ一つ、必ずみづきは起きると
「お兄ちゃん…」
と、誰かを探すような素ぶりを見せる。
そして、見つけられないと、少し悲しそうな顔をする。
その様子に、ナビは心を痛めていた。
リドは、サイやティーガが、
短い時間でもみづきと会話しているのを、
いつも複雑な気持ちで眺めている。
最近では、笑顔も見せるようになっていた。
(俺のこと…もう一生思い出さなかったら…)
その気持ちが今でも拭えないでいるから、
素直に会話に入る事が出来ずにいた。
『なぁ、リド王子…ちょっと話いいか?』
遠目でサイたちの会話を眺めているリドに、
アヴィが話しかける。
「あ…あぁ。大丈夫だ」
そう言うと、二人はテラスへと移動した。
『みづきに、話しかけてやらないのか?』
アヴィが言うと、
「俺…自信がないのかもしれない…」
リドは吐き出すような声で返す。
『自信?』
「あぁ…。そもそも、みづきが兄貴より俺を選んだのも
まだ信じられないところもあるし…、時々…今までのは夢だったのかも…って…」
そこまで言いかけたリドの言葉を、苛ついたような声でアヴィは遮った。
『あぁそうかよ。お前がそんな風に思ってるなら、
あいつはずっと思い出さない方が幸せかもな』
「…っ!」
リドは、改めて他人に言われると、やはり悔しい気持ちが込み上げてくる。
けれど、本当の事のような気がして、何も言い返せなかった。
『お前、あいつの何にもわかってないのかよ。
だったら、話すだけ無駄ってもんだな。悪かった』
そう言うと、アヴィはリドを置いてテラスを去ってしまった。