第1章 眠れるリング
「ティーガ…」
『ほら、リド、お前がそんな顔しててどうすんだよ。
一番しっかりしなきゃダメだろ?』
ティーガはそう言うと、テーブルに無理やりつかせる。
『みづきが目覚めた時、俺たちの笑顔見せてやろうぜ!
ほら、食えよ。侍女たちに用意させたからさ』
そう言うと、サンドイッチの包みを広げる。
トン トン
ドアのノックがすると、
『失礼します』
と、サイの執事がお茶の用意を運んで来る。
『ほんと、こう言うの抜かりないね、ティーガは』
サイもテーブルにつきながら言う。
「みんな…ありがとな」
リドが感謝の言葉を口にすれば、
『勘違いするなよ?全部みづきのためだからな!』
ティーガは少し照れ臭そうにサンドイッチを頬張った。
午後になると、医師が訪れ診察を終える。
『脈も体温も特に異常はありませんね。
あとは兎に角、声をかけたり、触れたりする事です。
念のため、私はお城に待機させて貰いますから』
医師が出て行くと、入れ替わりでカランがやって来た。
「兄貴!」
驚いて声をあげるリドに微笑むと、
カランはみづきのベッドを見て、心配そうに声を出した。
『まだ目を覚まさないのですね』
リドが静かに頷く。
『リド、しばらくここにいさせて貰いなさい。
今は公務も忙しくないから、私だけで大丈夫だから。
先ほど、サフィニアの王にもお願いして来たから』
「兄貴…」
『よかったね、リド。部屋を用意させるから』
サイがリドの肩に手を置きながら微笑む。
『後で、必要なものは執事に届けさせるよ。
早く目を覚まして下さいね、みづき様…』
眠っているみづきの手をそっと触れながらカランが言う。
『それじゃ、もう私は城に戻るから。
三人とも、あまり無理をしてはいけませんよ』
「もう帰るの?」
リドが驚いたように言う。
『あぁ。お前に伝えに来ただけだから。
それじゃ、また来るよ』
そう言うと、カランは帰って行った。
(リドは自分のせいだと自分を責めているのでしょうね。
早く目を覚まして下さい。みづき…)
カランは、静かに馬車に乗り込むと、
一度だけサフィニアの城を振り返った。