第1章 眠れるリング
『みづき姫に何かあったらどうしましょう…
あなたがあの忌々しい女と居るばっかりに…こんな事に!』
昨日とはあまりにも違う王妃の言葉に、リドもカランも目を丸くする。
『どうなさったのです、母上…忌々しいとは…』
カランが不安そうに王妃に声をかけた。
『あの女、リドに置いていかれた腹いせか知りませんけど、
〈あんな品格のかけらもないような王子は趣味じゃありません〉て、
わざわざお城に言いに来て去って行ったのよ!』
(あの姫さんならやりそうなことだな…)
リドは心の中で苦笑いをする。
「リド…悪かったな…。あの国は今、王族の失態で危機にあったそうなんだ。
それで、この豊かなオリブレイトの財政を当てにしての、お前との見合いだったらしい」
リドは、そんな話には興味がないとでも言いたそうな目を向ける。
『どうして、そのような事がおわかりに?』
カランが王に尋ねると、
「実は、あまり交流のない国だったもので、水面下で探らせていたんだよ」
王はリドに向き直ると、
「リド…このような事になったのは、少なからず私達にも責任はあるだろう。
申し訳なかったな。公務がない時は、サフィニアの城に行きなさい。
サフィニアの王と妃には、母さんが話をしてくれたから…」
と、リドの肩に手を置いた。
「母上が?みづきのためにか?」
『みづき姫もですけど、あなたのためによ、リド。
今朝、カランから聞いたわ。なぜ言わなかったの?あの子が…』
「トロイメアの姫だからか?理由は」
『そ、そう言うわけではないわ?』
「もう遅いよ。みづきはきっと、俺のことなんか…」
そう言うとリドは家族から目を背ける。
『何があったんだ?』
カランが不安そうな声を出す。
「あはは…兄貴の言う通りだったよ。みづきに言っておくんだった。
街で見られたらしくてさ。サイに怒られた。あいつ泣いてたって…
俺が誤解させたから、事故にあったようなもんなんだよ」
リドは自嘲気味に笑い、
「でも、ちゃんとみづきが目覚めるまで、側にいてやりたいから…」
『リド…』
カランも、王も王妃も、それ以上言葉が見つからずに、
リドの姿を見守っていた。