第1章 眠れるリング
「い、いいから。早くしないと、あのお姫様が戻ってくるだろ。
ラッピングもしなくていい」
そう言うと、無理矢理店主の手に代金を渡す。
店主は、驚きながらも、クスクスと笑いながら、
『ありがとうございます、リド様。
みづき様は、本当に幸せ者ですね、こんなに愛されて』
そう言いながら、小さな柔らかい巾着袋に入れたリングを渡す。
『そちらはピンキーリングですから、小指にはめてあげて下さいね』
「あ、あぁ。わかった…」
リドは、渡された巾着袋を、大切そうに受け取りポケットへと入れた。
『リド王子〜!』
ちょうどそのタイミングで、ショッピングを終えた姫が戻る。
『リド王子、何か買われたのですか?』
姫は、期待するような顔でリドを見つめるが、
『いいえ、リド様はこの国の王子として、
恥ずかしくない宝石が置いてあるかの確認をなさっていただけですよ』
と、店主が姫に向かっていい、こっそりリドにウインクした。
『なんだ…。さ、どこか行きましょう。
ちょっとお腹空いちゃいましたわ』
店主の言葉に、あからさまに不満顔で姫はリドの腕をとって歩き出した。
リドは、月明かりに照らされたリングを見ながら、
その緑色に光る石に伝わる、知らない星の言い伝えを思い出していた。
(遅かった…わけじゃないよな…)
リングをギュッと握りしめると、
まるで、自分の心臓を握りつぶしているような痛みが走る。
「みづき…。俺…お前が目を覚まさなかったら…」
それ以上は、想像もしたくない。
リングを巾着袋に戻すと、またそっとポケットにしまい込んだのだった。
城に着くと、真っ先にカランが駆け寄って来た。
『リド!みづきの様子は…』
リドはだまって兄を見つめると、こみ上げる熱を抑え込み、
掠れる声で、目覚めないかもしれないと伝えた。
『そんな…』
それ以上、カランは言葉にならない。
一度は自分が妃にとまで考えた姫だったが、
今は、弟の気持ちを想うと、心が軋むように痛んだ。
『リド!』
その後ろから、青ざめた王妃が駆け寄る。
「母上…ごめん。俺、あの人レストランに置いて…」
『そんなこといいのよ!それより…』
怒られると思っていたリドは、王妃の言葉に目を丸くした。