第1章 眠れるリング
「そ、そんなんじゃねーって!」
顔を真っ赤にしたリドに、店主は笑みをもらす。
(でも…あの時約束したんだよな…。あいつの笑顔は俺が作るって…
それなのに、昨日は、あんなに悲しそうな顔を…)
複雑な顔をするリドに、店主は声をかける。
『そうだ、リド様。
あのネックレスには、対になるリングがあるんですよ!』
ニコニコと、ショーケースの下の鍵を開け、
小さな緑色の石が輝くリングを取り出す。
「なんだよ、一国の王子にまた売りつけるのか?」
リドは不貞腐れたような声を出すが、
その目は、出されたリングに釘付けになった。
『そういうわけでは。でも、この対のリングには言い伝えがありましてね』
「言い伝え?そんなの聞いたことないぞ」
リドが少し興味を持ったと見えて、店主は誇らしげに語り出す。
『ある異世界の星では、その星を形成する奥底に、
それは沢山の緑色の石があるそうです。
その星では、それをペリドットと呼ぶそうなんです』
「ペリドット?」
『えぇ。どうやら、それは、この私たちと馴染みの深いこの石と同じ物のようです。
そして、その星ではペリドットの石の意味があるそうで…』
リドは、異世界やら、星やら、ペリドットやらと、
あまり馴染みのない言葉に少し驚くが、興味を持って店主の言葉に聞き入る。
「どんな意味が?」
『えぇ。その星では、〈夫婦の絆〉という意味があるそうなのです』
「ふ、夫婦?!」
それを聞いただけで、再びリドは顔を赤く染める。
『えぇ。生涯添い遂げたい者同士を、強く結びつけると言われています』
「そんな話、初耳だ…」
『それはそうでしょう。別の星の話ですから。
でも、その星では、ペリドットのネックレスと指輪を
本当に大切な人から贈られた女性は、贈られた相手と
生涯幸せに暮らすことができるんだそうですよ』
ニコニコとペリドットの逸話を話す店主に、
「わかったよ!買えばいいんだろ?」
リドは目を合わせられないまま、照れ隠しのような声でそう伝える。
『いえいえ、あくまでもそれは、贈る側の意思の問題ですから。
無理にリド様に買っていただこうとは思っておりません』
そう言うと、店主はリドに見せていたリングを、
元の場所へと仕舞おうとする。