第1章 眠れるリング
夜遅くに、リドの執事が迎えに来た。
医師は、落ち着くまではみづきを動かしてはならないという。
一度はサフィニアに留まると口にしたリドだったが、
執事に窘められ、一度は城に戻るように説得された。
『何かあったら、すぐにオリブレイトに使いを出すから。
今日はリドが戻らないのはまずいでしょ…色々と』
サイからも戻るように言われ、渋々馬車に乗り込んだ。
(俺…何やってんだろ…)
馬車に揺られながら、両手で顔を覆うようにうな垂れる。
(兄貴もちゃんと言えって言ったのに…。
こんな事になるなら、隠さなきゃ良かった)
「クソッ!」
リドはやり場のない怒りを発散させるすべもなく、自分の太腿を拳で殴る。
「いっ…」
その拳には、殴っただけではない痛みが走った。
痛みの原因を、ポケットの中からそっと取り出す。
「本当は、謝罪の気持ちを伝えながら渡すはずだったリングが、
馬車の窓から差し込む綺麗な月明かりに照らされて、
キラキラと、でもどこか儚げに煌めいている。
『リド様、いらっしゃいませ!
あれ?今日はみづき様と一緒じゃにないんですか?』
顔見知りの宝石店の店主は、キョロキョロとみづきの姿を探す。
「あ、あぁ…ちょっと今日は…」
そう言うと、別の店で店員と笑顔で話している姫に目をやった。
『え?』
店主は驚きながらも、
『リド様も、みづき様と言う方がいらっしゃりながら、
隅に置けないですね?』
と、少し意地悪そうに軽口を叩いた。
「ばかっ。そんなんじゃねーよ。
好きで一緒にいるわけじゃ…」
リドが全てを言い終わる前に、
『わかってますよ。リド様も王子様ですものね。
時には、お付き合いも仕方ありません』
店主は先ほどとは違う、少し憐れみをはらんだ声でそう伝える。
『そういえば、ネックレスは喜んで頂けましたか?』
以前、みづきのプレゼントに、と購入したネックレスについて、
店主が思い出したようにリドに尋ねた。
「あぁ!ありがとな。あいつ、凄く喜んでた」
ネックレスをプレゼントして、初めて自分の部屋に誘った事を同時に思い出した。
(みづきの照れた顔…可愛かったな…)
『あ、リド様、今みづき様のこと思い出してましたね?
すぐ顔に出るんですから』