第1章 眠れるリング
其処からの事は、リドはあまり覚えていない。
後から聞けば、姫を置いていくのは駄目だと言われたが、
振り切って馬車を引いていた馬にまたがり、
誰の制止も聞かずに走らせたらしい。
残された姫は、カンカンに怒っていたが、執事が何とか宥め、
新しい馬車を用意させ送らせたという事だ。
何処をどう走ったのかも覚えていない。
気づいた時には、サフィニアの城に駆け込んでいた。
あまりの形相に、城の従者も驚いたが、
急いでみづきの寝かされた部屋に案内させた。
扉を勢い良く開ければ、
そこには、ベットには頭を包帯でグルグルと巻かれ寝かされたみづきと、
その手を握っているサイに、立ちすくむティーガ。
傍のテーブルには、目を赤くしたアルマリに、
夜の診察を終えたのか、道具を片付けている医者と話すトトリがいた。
『お前!今まで何してたんだよ!!』
息を切らして入って来たリドを見ると、ティーガが掴みかかった。
『やめなさい、ティーガ!』
トトリが、珍しく大きな声を出してティーガを咎める。
「離せよ!」
リドは、ティーガを振り払うと、恐る恐るベットに近づく。
「みづき…?」
自分でもビックリするくらい声が震えた。
「みづき!みづき!」
訳もわからず、名前を叫ぶリドに、
サイは、静かに立ち上がると、リドの肩を掴んだ。
「しっかりして!」
と、声を張る。
「お前達、一緒にいて何でこうなるんだよ!」
何も知らないリドはサイを怒鳴りつける。
すると、一度は大人しくなったティーガが再びリドの元へ駆け寄ると、
『ふざけんな!全部お前のせいだろっ!
泣かすだけじゃ物足りない無かったとでもいうのか!』
と再び掴みかかった。
「泣かすって何だよ!俺は何にもしてねーだろ!」
リドもティーガの胸ぐらを掴んで叫ぶ。
「やめなよ二人とも!みづきがいるのに!」
サイが見兼ねて叫ぶと、二人とも掴んでいたお互いを離した。
「あのテラスにリド達が来た時…その前からみづきは二人を見てたんだよ」
静かに話し出したサイの言葉に、リドは絶句する。
「みづきに…見られてた…?」