第1章 眠れるリング
トトリとアルマリが、今日一日の出来事の説明を受けている頃、
リドは、最後に訪れたレストランで食事を取っていた。
『今日は本当に楽しかったです。
こんな素敵な場所にも連れてきていただいて…』
リドは、目の前でうっとりと街の夜景を見下ろす姫を、
何処か他人事のように眺めていた。
(みづきだったら、もっとキラキラした瞳ではしゃぐだろうな…)
今日一日、オリブレイトやサフィニア、ガルティナなどを馬車で案内し、今目の前で食事をしている姫は、
やたらとくっついてくるし、いつも上目遣いだし、事ある毎にベタベタ触ってくる。
立ち居振る舞いは確かに上品かもしれないが、リドはあまり好きになれななかった。
その度に、心の中で〈みづきだったら…〉と比べてしまう。
昼間、お茶が飲みたいと言われ、立ち寄ったカフェのテラスから、
みづき達を見つけた時は、正直焦った。
できるだけ、居そうな場所は避けていたはずだったが、
どうしても其処に行きたいという姫に負けて立ち寄ってしまったのだ。
(サイ、気づいてたな…しかも…怒ってたな、あの顔…
ティーガもサイもみづきに触れすぎだったし!)
気づけば、一日中みづきの事ばっかり考えている自分に気づくと、
おかしくなって、少し笑ってしまう。
『どうなさったの?思い出し笑いかしら』
笑顔で話しかけてくる姫に、その存在を思い出しハッとする。
「ま、まぁ」
適当な相槌で答えると、今日の事と勘違いした姫は
『リド王子も楽しかったんですね!よかった!』
と、良いように解釈した返事をした。
『ずっと気になってたんですけど…』
そう言いながら、姫はナイフを持っているリドの手首に手を伸ばし、
『このブレスレット素敵ですね!』
と、触れようとした。
「触るな!」
つい、大きい声を出してしまい、姫の動きがピタっと止まる。
周囲で食事をしている客達も驚いてリドに視線が集まった。
「あ、いや…ごめ…すまない…。これは、大切な物なので…」
『私の方こそすみません。大切な物とは知らずに』
言葉は謝っているが、その声に申し訳なさは感じられない気がした。
(みづきとお揃いの物に触れるなよ、全く…
はぁ…言葉遣いとかも疲れんだよな…)
リドは深いため息を吐いた。