第6章 ★世界で一番好きな人/笹谷武仁
いたずらっぽく笑うさんだったけれど、さんの制服姿を想像しただけで、俺の肉塊はまたむくむくと大きくなりつつあった。
「…ちょっと、武仁。今日はもうしないからね?」
俺の下半身をちらっと確認して、さんは呆れたような声を出した。
自分でも己の性欲の強さに呆れていたところだったから、さんの視線は痛かった。
「分かってますよ。…そんだけ、あんたが好きって証拠なんすよ」
「それは嬉しいけど。……でも、ただヤリたいだけって可能性もあるじゃん?」
多分、さんからしたらその発言に深い意味は無かったんだと思う。
俺があまりにもしたがるから、軽い冗談のつもりで言ったんだと思う。
もしかしたら、昔の男のことを思い返しての発言だったのかもしれない。
兄貴か、あるいは他の元カレの。
…それでも、俺の想いがさんにちゃんと届いていないような気がして。
胸の奥がズキンと痛んだ。
盛りの付いたそこらの男どもと一緒にしないで欲しい。
俺がどれだけさんの事を想っているか―。
「俺は、さんの事、本当に真剣に考えてる。卒業したら、結婚したいと思うくらいに」
こんな風に伝えるつもりは無かった。
もっときちんとした形でプロポーズするつもりだった。
だってほら。
目の前のさんは固まったまま動かないじゃないか。
きちんと指輪も用意して、さんとの仲ももっと深めて。
段取りを踏んでから伝えるつもりだったのに。
恋の魔力というものは、時に人を狂わせてしまう。
「……結婚って…そういうのはまだ、ちょっと早くない?」
努めて明るく、さんは言った。
俺を傷つけないように明るく答えてくれたのはよく分かっていた。
けれどその時は、プロポーズを断られたことしか頭に入らなくて、さんの気遣いにまで気が回らなかった。
「兄貴のプロポーズには、喜んだくせに」
覆水盆に返らず、とはよく言ったものだ。
一度口にしてしまったことは取り消しがつかない。
思わず口にしてしまった言葉に、さんの表情がみるみるうちに硬くなっていくのが分かった。
「…なんで、それ…知ってるの…?私が、プロポーズされた事……」
地雷を踏んだのは目に見えている。