第6章 ★世界で一番好きな人/笹谷武仁
ぷっくりと膨れた花芽に指先が当たる。その度に痙攣のようにさんの体が震える。
俺の物と同じように敏感になっているそれを、愛おしむように優しくなぞった。
「だめっ、そこは…いっちゃいそうになる、からっ…!」
「いいよ、イって」
「やだ…っ、あっ、武仁と一緒が…あぁん…」
懇願するように、俺の下半身にそっとさんが触れてくる。
さんの方の準備は万端そうだったし、かくいう俺も結構我慢の限界ではあった。
さんだけをイかせて、絶頂したさんの顔をじっくり眺めたかったけれど、それはまた今度にしよう。
今日は、彼女の希望に沿って。二人で一緒に昇り詰めたい。
「…ちょっと待って」
なるだけ雰囲気を壊さないようにと思いながらも、こうなる前に手元にゴムを置いておけば良かったと若干後悔し始めている俺がいた。
気分が盛り上がっている時に、こうやって行為を一時中断しなきゃならないのはあまり好きじゃない。
「いいよ、つけなくても」
「えっ」
さんの言葉に驚いて、思わず固まってしまった。
鞄までゴムを取りに行こうとした俺の手を掴んで、さんは事も無げに言った。
「ピル、飲んでるから大丈夫」
「…そっか。でもこういうのは、ちゃんとさせてくれないか? なんつーか…俺、さんの事、本気だから。無責任な事、したくない」
「武仁……」
さんの手が静かに離れた。
ごめん、と再度断りを入れて、鞄までゴムを取りに行った。
その間にさんはベッドへと移動していて、俺も静かにベッドへと腰を下ろす。
シーツにくるまって待っているさんの熱が冷めないうちに、ゴムをつけてシーツへともぐりこんだ。
「ありがとう、武仁」
「何が?」
「…分かってるくせに」
礼なんていらない。ただ当たり前のことだ。
さんを大事に想うなら、避妊具を使うべきなのだ。
己の快楽の為だけに、相手を不安にさせるべきじゃない。
ふと、兄貴の顔が浮かぶ。
続きを求めてくるさんを相手にしながらも、頭のどこかで兄貴の姿がちらついて仕方が無い。
出がけに「避妊をしろ」と兄貴に声をかけられたからだろうか。
今日はいやに兄貴のことが浮かんでくる。