第6章 ★世界で一番好きな人/笹谷武仁
じっと見つめる俺の目力に負けたのか、さんは甘い吐息を吐きながら困った顔で視線をそらした。
「…武仁、先輩」
「」
口を塞ぐようにキスをすれば、しばらくして苦しそうな息が漏れてくる。脳に酸素がいかずに自分もクラクラしてくるけれど、さんから離れることはしなかった。
このまま死んでしまってもいいかもしれない、なんて思った頃には、苦しさに我慢できなくなったさんが胸をドンドンと叩いてきたから離れざるをえなかった。
「死んじゃうよ、苦しい」
「…このまま死ねたら本望だ」
自分でもぞくりとするような声音だった。
組み敷いたさんの顔を見れば、それがどれほど黒い感情だったのかよく分かった。
微かに揺れるさんの瞳が、怯えた色をしている。
「冗談ですよ」
「…冗談に聞こえないし」
「……本当に、冗談だって」
怯えさせたいわけじゃない。
ただ俺に心底惚れて欲しいだけ。
さんが一番良いと思える男になりたいだけ。
だから、さっきみたいな苦しいキスはやめて、彼女が望むような甘いキスを繰り返した。
時折さんの口から漏れ出る甘い吐息が、さらに俺の熱を高めていく。
我慢できずにさんのTシャツを捲り上げて下着をずらした。
露になった乳房にかぶりつくように吸い付くと、抑えきれない甘い声がさんの口から漏れ聞こえてくる。
汗ばんだ肌からじわりと得も言われぬ香りが漂い、俺の鼻腔をくすぐった。
多分、フェロモンとかそういう類のものだ。
自分の行為で、さんの体が反応してくれるなんて、これ以上に喜ばしい事はない。
もっとその香りをかぎたくて、一心にさんの好きなところを責め立てた。
「あっ…あっ…」
「まだ胸しかいじってないのに、すげーやらしい声出すんすね」
ニヤリと意地悪い笑みを浮かべると、さんの頬がさぁっと赤く染まっていく。
さんは、こうやって意地悪くされるのが好きだ。
言葉で、態度で、体も心も俺の下に組み敷かれるのを望んでいる。
俺は別にSの気があるわけじゃないけれど、さんが喜ぶのなら喜んでSになる。
でもこうやって眼下から熱っぽい目で見上げられると、ゾクリとする。