第6章 ★世界で一番好きな人/笹谷武仁
言葉を交わさずにやりとりをする俺達の様子を見て、横で騒がしくしていた鎌先達は気がそがれたのか、静かになってしまっていた。
俺と彼女の、何とも言えない親密そうな感じに、鎌先も二口も、口論を交わすよりも俺をいじる方が面白そうだと思わずにはいられなかったようだ。
「なんすか笹谷さん。アイコンタクトっすか」
「おい笹やん、さっきも言ったろ? 俺の目の前でいちゃつくなってよぉ」
「別にいちゃついてなんか……」
「いーや、十分いちゃついてるね! つーかなんだって部活見に来てんだよ。羨ましすぎるぜこの野郎!」
鎌先が力任せに俺の髪を掻きまわす。折角朝からセットして立てた髪も、鎌先によって無残なものに変わり果ててしまった。
「……お前なぁ、そんなんだから彼女出来ねぇんだよ」
「なにっ?!」
セットを崩された腹いせに俺が放った言葉は、思っていたより鎌先に大きなダメージを与えたようだった。
彼女がいる俺が言うなら間違いない、という思いが鎌先にはあったのかもしれない。
恋愛先駆者の発言を、気にせずにはいられないようだった。
「もっと大人になれ。落ち着け。余裕ある男はモテるぞ」
「マジか!! わ、分かった!」
言って、鎌先は何故か髪型を整え、捲っていた袖を戻し、ネットの支柱のそばに行ったかと思うと、支柱に少しだけ寄っかかって意味ありげに渋い顔をし始めた。
「あれ、絶対意味分かってないでしょ、鎌先さん」
「…だな」
二口の呟きに、静かに同意する。
二口と2人で半ば呆れた顔でいまだ支柱にカッコつけて寄りかかっている鎌先を見つめた。
「そういや笹谷さん、彼女とどこで知り合ったんスか?」
先ほども同じ質問を鎌先達にされたな……。
男子が過半数を占める伊達工においては学校での出会いは限られているから、皆が気になるのも仕方が無いのかもしれない。
「あー…兄貴の…友達でな」
今度は馬鹿正直に答えることをしなかった。『兄貴の元カノ』だと伝えた時の鎌先達の反応から、やはりその事実は伏せる方が賢明だと思った。
別に寝取ったとか、そういうやましいところは何も無かったのだが、変な勘ぐりをされるのもわずらわしい。
「へー、そうなんすね。じゃあ、年上なんスか?」
「あぁ。2歳上だな」
「2つ上……ってことは今、大学生?」
「そうだな」