第6章 ★世界で一番好きな人/笹谷武仁
鎌先達の反応は最もだと、思った。
誰だって遡れば誰かの『元』がつくかもしれない。
だけど、その『元』の相手が、よく知った、それも兄弟なのだとしたら。
鎌先達が一瞬言葉に詰まってしまったのも頷ける話だ。
「けどよ、その、気まずくねぇ? 兄貴の元カノなんだろ? ……お前らが付き合ってんのとか、兄貴知ってんの?」
「知ってる。けど別に気にしてないんじゃないか。何も言ってこねぇし」
「……そんなもんなのかね」
「別れたっつっても、今でもフツーに兄貴と連絡取ってるしな。恋人じゃなくて友達に戻った、って感じ?」
「……ますます分かんねぇ。友達に戻れんのか……なんか大人だな……」
鎌先にとって、『彼氏彼女』というものはどこか遠い存在であり、未知の世界なのだろう。
それ故に、別れた後も『友達』として付き合いを続けられることに驚いたのだろうし、何より兄弟間で同じ女性と付き合う俺達の心情は遠く理解に及ばない話だったのだろう。
「付き合ってどれくらいなんだ?」
「明日で2か月だな」
茂庭の質問に答えると、どこか納得した様子で茂庭は何度も頷いた。
「まだ付き合い始めたばっかじゃん。そりゃあラブラブな訳だ」
「でもよぉ、校門前でイチャイチャすんのは勘弁して欲しいぜ」
校門前での抱擁も致し方ないと受け入れの姿勢を見せた茂庭に反して、やはり鎌先は納得いかないようだった。
俺も今日の出来事であれこれ噂されるのは多少面倒だと思うものの、やはりさんからの愛情表現を無下には出来ないと思う気持ちの方が勝っていた。
「悪い。気を付ける」
「…ぜってー思ってねぇだろ、笹やん。顔が笑ってんぞ!」
この野郎! と鎌先になじられながらも、俺は嬉しそうな顔を崩さなかった。
そんな俺の表情を見て、茂庭が何か新しい俺の一面を垣間見たような顔をしていた。
******
―笛の音が、試合終了を告げる。
2セット先取の試合を終えたところで、一旦休憩が入った。
思っていた通り、今回も点差を詰められることなく伊達工は勝利した。
チームのレベルとしては、伊達工の方が格上なのだろう。
ただ、いくら格下のチームとはいえ勝負事は何が起きるか分からない。
試合感覚を掴むには十分な相手だったし、それなりの運動量のある練習試合だった。