第6章 ★世界で一番好きな人/笹谷武仁
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「笹やん、見たぞ」
「何を」
部室で顔を合わすなり、険しい顔をしながら近づいてきた鎌先に、俺は嫌な予感しかしなかった。
大方、校門前での出来事を見られていたのだろう。
厄介な人物に見られてしまったものだと思いながら、俺は目の前で怒り(ほぼほぼ嫉妬だろう)に震える鎌先の言葉を待った。
「何って、お前!! 神聖な学校前であんなハレンチな事をだなぁ!」
「…あー……あれか」
「あれか、って…おまっ、なんでそんなクールなんだよ?! 何か、あんなの日常茶飯事だってのか?! かーっ、茂庭、嘆かわしいと思わねぇか?! こいつ彼女いるからって余裕ぶってよぉ!」
いつもと変わらない表情でいる俺に、鎌先は前のめりになりながら言葉を捲し立てた。
横で聞いていた茂庭は、その鎌先の勢いに若干引きながらも、主将らしく鎌先をなだめにかかった。
「まぁまぁ、落ち着けよ鎌ち」
「落ち着いていられるかっ!! 校門前で! 周囲の目も気にせず!! 美女とハグだぞ?! くっそ羨ましい!!」
「……鎌ち、最後本音が漏れてるぞ」
「羨ましい…! 羨ましいです、笹谷さん!! どうしたらあんな美人の彼女が出来ますか!!」
先ほどまで俺を責め立てるように詰め寄っていた鎌先だったが、今度はまるで師匠のように俺を崇め始めた。
その変わり身の早さに俺は呆れた顔で鎌先を見た。
「なぁ、マジでどこで知り合ったんだよ。他校とかじゃねぇだろ? 他校だったら合コンくらい開いてくれてるよなぁ?」
「あ、知り合った経緯は俺も気になる」
鎌先に続いて、茂庭も興味津々と言った顔でこっちを見ている。
別に隠すことでも無いか、と俺は素直に2人の疑問に答えることにした。
「知り合ったっつーか、元から知り合いだったからな。…兄貴の、元カノなんだよ」
俺の言葉に、それまでやかましく騒いでいた鎌先も、隣で穏やかな笑みを浮かべていた茂庭も、同じように固まってしまった。
何度か瞬きをしただけで、2人ともなかなか言葉が出てこなかった。
そんな2人をよそに当の俺は、2人の様子をさして気にしていない風を装って、着々と着替えをすすめる。
「…はっ? いや、それ、マジ?」
「マジ」
「何がどうなってそういう事になんだよ……すげーな、笹やん…俺とは次元が違ぇわ」