第6章 ★世界で一番好きな人/笹谷武仁
小学校低学年くらいの子供達が、きらきらと輝きに満ちた笑顔でこちらに駆けてくる。
周囲の様子などお構いなしに道の幅横いっぱいに広がって駆けてくる子供達に道を譲ると、遠くから女性の声が響いた。
「こらー! 気をつけなさいって言ったでしょ、君達!」
叱責というよりかは、じゃれ合いの延長のような、明るい声音で子供達に声をかけた女性は、駆けて行く子供達の背中を見ながら、にこやかな笑顔を浮かべている。
その女性が誰であるか気が付いた時には、向こうも俺の存在に気が付いたらしく、こちらに向かって大きく手を振り始めた。
「…さん。こんな所で、何してるんですか」
「ん? 武仁に会いに?」
ほら、とさんから手渡された小さな箱を受け取ると、さんは満面の笑みで抱き着いてきた。
「え、ちょっと!」
「いーじゃん、充電充電」
「充電って……だからって校門前はマズイっすよ」
「そう?」
困った顔をしながらも、俺自身悪い気はしていなかった。
彼女からの愛情表現は、俺にとって一つの精神安定剤の役割を果たしていたから。
誰しも、恋愛中は相手からの愛情表現は嬉しいものだと思う。この俺にとっては、一般的なそれとは比べ物にならないほど嬉しい事であった。
俺がそこまで、さんからの愛情を欲っしてしまうのには、当然ながら理由がある。
「このままキスもしてしまいたいけど」
さすがにそれは刺激が強すぎるかな? と笑いながら言って、さんが俺から身を離した。
彼女からの抱擁は時間にすれば1分もなかった。しかし周囲の注目を集めるには十分だったようで、俺と同じように部活に向かう生徒達からは刺さるような視線を遠慮なく投げつけられることになった。
「…覚えといてくださいね。今日、寝かせませんから」
努めて表情は変えずに、そう言葉を放つと、さんはいたずらっぽく笑いながらおどけた答えを返す。
「あらら、変な火つけちゃったかな? でも今日もみっちり部活なんでしょ。果たして夜持つのかねー?」
「そう言っていられるの、今の内ですからね。こないだも、そうだっただろ」