第6章 ★世界で一番好きな人/笹谷武仁
世間はゴールデンウィークの話題で賑わっていた。
高速道路を埋め尽くす車や、人で溢れかえっている行楽地の様子を、朝から延々とテレビが垂れ流している。
今日の天気と気温が知りたいのに、全国ニュースで取り上げられるのは行楽地や都心の天気ばかりで、全く参考にならない。
休みを喜ぶ世間一般との隔たりを感じて、俺はため息をつきながらテレビを消した。
高校最後の年。
ずっと続けてきたバレーも、今年が最後になるだろう。
来年からは社会人として生きていく事を決めた俺にとって、今年は貴重な一年だった。
社会人になっても、地元のバレーチームなりなんなりに属すれば、バレー自体は出来る。
けれど、三年間苦楽を共にしてきた仲間とプレー出来るのは、今年で最後だ。
俺の通う『伊達工業高校』は、男子高校バレーでは名の知れた強豪校だ。
『伊達の鉄壁』の異名を持ち、その守備力の高さで県内の高校では抜きんでていた。
ただ、俺達の学年は悲しいかな『不作の時代』と呼ばれてしまっていた。部員数が少なかったのもあったが、何より高身長の人間が少なかった。
ブロックを主軸に戦う伊達工の戦略において、やはり身長は重要なファクターだ。身長が高ければ高いほど、ブロックの高さも必然的に高くなる。
186センチの鎌先を除いては、俺も、主将を務める茂庭も、170センチ中盤の身長だった。平均身長よりか少し高めではあるものの、スポーツの、バレーの世界においてはそう高い方ではなかった。
しかし『不作の時代』などと不名誉な呼び名をつけられても、俺含め三年のメンバーはめげずに今日まで頑張ってきた。
夏のインターハイが終われば、俺達三年の高校バレーは終わる。
そのインターハイに向けて、楽しそうに賑わう世間をよそに、俺は今日もスポーツバッグを抱えて家を出た。
今日は来月のインターハイ予選に向けての練習試合がある。
相手の高校は、伊達工とは違うタイプの、攻撃力の高いチーム。
今までにも何度か練習試合をしたことがあるが、負けたことは無い。
きっと今日も無難に勝てるだろう。ぼんやりとそんなことを考えながら、通い慣れた道を進んでいった。