第1章 マカロンにまつわるエトセトラ/東峰旭
の笑顔につられて、東峰の顔も自然と笑顔になる。
2人で隣に並んで歩くのは、初めての事で。
それが教室から、すぐ近くとはいえ校外の坂ノ下商店までの道のりとなると、にとってそれは長い道のりに思えた。
今まで普通に会話をしていたはずなのに、急に何を話していいのか分からなくなってしまう。
それは東峰も同じなようで、何度も2人して顔を見合わせて困った顔で笑いあった。
「なんか、変な感じだな」
「そうだね」
「……そういや、とはずっと同じクラスだったな。そんでよく愚痴聞いてもらってたっけ。……3年間も愚痴聞いてくれてありがとう」
「いーえ、どういたしまして。…卒業したら、東峰大丈夫?なんかストレス溜めこんじゃいそうで心配」
「うっ…だ、大丈夫だよ……たぶん」
「ふはっ、『多分』って。ほんとそういうとこは3年間変わらなかったね。見た目はこんなに成長を遂げたのに」
東峰の顎髭をしげしげと眺めながら、がいたずらっぽく笑う。
東峰は目を丸くさせたかと思うとすぐに情けない顔になった。
「までそういうこと言う?」
「澤村君も言いそうだね」
「…言いそう。しかも満面の笑顔で言うな、大地は」
爽やかな、けれど含みのある澤村の笑顔が2人の頭の中に浮かんだ。
澤村の顔を思い浮かべて、東峰はぶるっと身を震わせた。
「本人いないのにそんなに怖がらなくても」
「もう癖みたいなもんでさぁ……」
大きな体を小さく丸めて東峰は苦笑いする。
1度コートに立ってしまえば、今みたいな東峰の姿は鳴りを潜め、代わりに雄々しい東峰のもう1つの顔が現れる。
けれど、今それを他人に話したとしてもきっと信じてもらえないだろうな、とは東峰の猫背を見ながら思う。
「澤村は進学だっけ」
「そう。県外の大学行くって」
「菅原は?」
「スガは東北大」
「そっかぁ……ほんとみんなバラバラなんだね。東峰は就職するんでしょ?」
「あ、うん。は専門行くんだっけ?」
「うん、服飾の」
「へぇ……じゃあ将来デザイナーになったりするの?」
東峰の言葉に、の顔がかぁっと赤くなった。
笑わないでね、と前置きしてが東峰の問いに答える。
「舞台の衣装作るのが夢なの」