第1章 マカロンにまつわるエトセトラ/東峰旭
東峰のこういうところが、には可愛くも思え、不憫にも思えた。
「だったら、さ。私も一緒に行こうか?」
いつものだったら、そんな言葉は口にしなかっただろう。
けれど今は、「谷っちゃん」の事だとか卒業までもう日が無いだとか、様々な事がの胸に押し寄せて、それが少しだけ彼女の背中を押した。
「え、いいの?」
「うん。東峰が、嫌じゃなければ」
「嫌じゃないよ。助かるよ、ありがとう。買いに行くの今週末でもいいかな?」
「うん、いつでも。もう特に予定も無いし」
「分かった。じゃあまた連絡する……あ、連絡先交換していい?」
「あ、うん」
は嬉しさが顔に出ない様にするのに必死だった。
長いこと同じクラスだったのに、連絡先の交換さえしていなかった。
それがこんなタイミングで叶うなんて。
でも、もう遅いような気もする。
連絡先を交換したくらいで、何かが変わるだろうか。
今まで踏み出せなかった自分が、何か変えていけるだろうか?
スマホに表示された東峰のアドレスをはじっと見つめた。
昼休みを告げるチャイムの音が鳴り、あちこちから席を立つ音が聞こえ始める。
「は今日どうするの?帰る?この後も残る?」
「……東峰は?」
「俺はもう少し残るよ。もうちょっとやっておきたいことあるし」
質問に質問で返したに、東峰は嫌な顔一つせず答える。
「そっか。私ももうちょっと残るつもり」
東峰の今後の予定に合わせて、特に学校に残る必要のないも、もう少しだけ残ることに決めた。
少しでも、そばにいたい。
残された時間は、もうほんの少しなのだ。
あと少しの時間で、ドラマみたいな劇的なことは起こらないだろうけれど。
それでも今日、やっと連絡先を交換できたみたいに、何か変化があるかもしれない。
はほんの少しだけ、そんな期待を抱き始めていた。
「坂ノ下行くけど、も行く?」
残る、といったわりに弁当の類を持っていなさそうなに対して、東峰がそう誘うとは嬉しそうに頷いた。
その時だけは、気持ちを隠さなければ、なんて意識はとんでいて気持ちはそのままの顔に表れていた。