第1章 マカロンにまつわるエトセトラ/東峰旭
「舞台の衣装かぁ。らしいな。そういえば文化祭で劇やった時も、衣装全部手がけてたもんなぁ。あれすごかったよ。ドレスとか本物みたいでさ!いっつも放課後遅くまで残って頑張ってたよな、」
東峰が優しく笑う。
はその笑顔はもちろん、東峰の何気ない言葉にも嬉しさを感じていた。
2年生の時の文化祭のことを東峰が覚えてくれていたのが嬉しかった。
いいものを仕上げようと必死で頑張っていたことを、知っていてくれたことが嬉しかった。
「すごいな、は。ちゃんと夢を持って、それに向かって頑張ってるんだな。それに比べたら俺は、ダメだなぁー……」
「どうして?卒業してすぐ働くのもすごいと思うけど」
進学も、就職も。
ベクトルは違えども、自らの足で進んでいくのに変わりはない。
むしろ自分と同じ年で一足先に社会に出ていく就職組に対して、はある種尊敬の念すら抱いていた。
「いやぁ、俺はさ、就職決めたのも先生に勧められたからなんだよね。就職先も候補いくつかあげてもらってさ、その中から決めたんだ。……だからみたいに自分で考えて決めて、っていうのすごいなって思って」
「んー……でもさ、」
東峰の自信なさげな猫背にエールを送るが如く。
は東峰の目をまっすぐ見つめて、言葉を紡いだ。
「きっかけは先生の勧めでもさ。そうする、って決めたのは誰でもない東峰自身でしょ?ちゃんと自分で就職先も選んでるんだし。私も東峰も、差なんてないよ」
「……と話してるとさぁ」
頼りなく下がっていた眉尻が、ぐっと上がって。
東峰の表情にどこか凛々しさが漂う。
「なんかこう、ぐっと背中を押してもらえるんだよな。ほんと頼もしい存在だよ、俺にとって」
さらりと言ってのける東峰の顔を、はまじまじと見つめてしまう。
今日は2人とも少しネジが緩んでいるのだろうか。
それともが意識し過ぎているから東峰の言葉に過剰な期待を抱いてしまうのだろうか。
どちらとも判別のつかないまま、は小さく「そんなことないよ」と答えた。
「…っ、でも卒業したらいないんだもんな……うっ!想像したら胃が痛くなってきた……」