第4章 金木犀の香りを追って(BL)
「俺は、貴方が羨ましくて仕方がなかった。次期主将になることを相談された時も、貴方の状況が羨ましくて妬ましかった。俺もそんな風にみんなに望まれたかった」
――平静?淡々と?いつもと変わらない?
それが全部俺の思い違いだったと、今ようやく分かった。
赤葦も、俺と同じだった。同じように、前主将の影に悩まされていたんだ。
初めて見る、赤葦の苦し気な表情。そんな顔を赤葦にさせないと、俺は気が付けなかったんだ。赤葦の、本心に。彼の心の奥底にあるものに。
途端に、恥ずかしくなった。自分のことばかりで、赤葦のことを思ってやれなかった。赤葦はいつだって、俺の事を思っていてくれたのに。自分の抱えている物をひた隠しにして。
「……ごめん。俺、自分のことばっかり考えてて。赤葦のこと、ひとつも考えてやれてなくて」
「謝らないでください。そうなるように仕向けたのは、俺です。……俺は、貴方にこんな情けない俺の中身、知られたくなかったですから」
「情けなくなんかない! 情けなくなんかないよ……」
羨望、嫉妬。そんな感情を俺達はお互い抱いていた。
それは前主将に対しても、そしてお互いに対しても。
「俺は赤葦の主将やってる姿、好きだ。冷静に周りを見て、指示出して。それに皆がついてきて。俺の理想の主将像なんだ」
「…それを言ったら、俺だって。縁下の主将姿、好きだよ。走りがちなチームメイトをうまく抑えて、操縦してる感じ。見てるとゾクッとする」
お互いに、褒め合う言葉を交わすと、ふっと心が軽くなったような気がした。赤葦もそうだったのか、先ほどまでの黒いオーラは感じられない。
俺達は憑き物が落ちたように、お互いスッキリした顔で笑い出した。
「もっと、早くに素直になれば良かった」
言って、俺と赤葦はお互い顔を見合わせてひどく驚いた顔になった。一言一句違わずに、二人で同じ言葉を口にしたから。
「……本当、だよな。そうすれば赤葦を傷つけなくて、済んだのに」
「そうですね。春高以降、どれだけ俺が落ち込んだか。……これから、その分みっちり返してもらいますね。覚悟しておいてください」
「……了解」
不敵な笑みを浮かべた赤葦がいやに艶めかしくて、俺の体は急激に熱を帯びていく。この熱を赤葦にも伝えたくて、そっと手を伸ばした。