第4章 金木犀の香りを追って(BL)
何も言葉を返せないでいる俺に、赤葦は静かに話し始める。
「……木兎さんは、光なんです。それも強烈な。見る者すべて目が眩んでしまうような、そんな激しさがある。俺はずっと、その光の傍にいました。ずっと強烈な光のそばに居たら、どうなると思いますか」
赤葦の問いかけに、俺はすぐには答えられなかった。答えが見つからないわけではなかった。だけど、それを答えてしまってもいいのかどうか、分からなかったんだ。
これ以上、赤葦の傷を抉るようなマネをしたくないと思ったから。
「強烈な光のそばでは、影になるしかないんです。たとえ光ってみたとしても、強烈な光に飲み込まれてしまう。自分の存在はかき消えてしまうんですよ」
「……」
言葉が、出ない。なんて相槌をうったらいいのか、分からない。じっと話を聞くだけの俺に、赤葦は静かに言葉を続ける。
「……もとより、俺は光より影の役回りの方が性に合っていると、自覚はしていました。だから別に影でも構わなかった」
光に寄り添うように、影として立ち回っていた赤葦。副主将という立場は、まさに『影』だったのだろう。否応なしに目立つ木兎さんという存在。けれどその実、チームを動かしていたのはその木兎さんをうまく操る赤葦や他の部員達だったと思う。
光がなければ、影は生まれない。
木兎さんがいなかったら、赤葦はどんな存在になっていたのだろうか。
「……光があれば闇がある。けれど闇だけでは、光は生まれないんですよ。だから、影である俺には木兎さんみたいに、みんなを引っ張るような力はないんだと思います。求心力がないから、あんなことを言われてしまうんだ」
赤葦の目は、遠くでいまだ賑やかにはしゃいでいる木兎さんを捉えている。いつもの表情に見えて、その目はギラリと光っているように思えた。まるで、猛禽類のそれだ。その鋭く光る目が、今度は俺を捉える。
「その点、貴方はどうですか。皆に信頼されているじゃないですか。みんながあなたを主将だと認めて、そうあってほしいと望んだ。それなのに貴方はそれを重荷に感じるんですね」
語気はいたって普通だ。そのはずなのに、赤葦の言葉はたくさんの棘をまとっている。けれどその棘は俺に向けてというよりか、赤葦自身に向けられているような感じだ。