第4章 金木犀の香りを追って(BL)
『木兎さんみたいな人がよかった』なんて。『赤葦ではダメだ』って言われているのと同じじゃないのか。俺だったら、そんなこと言われたら、気にせずにはいられない。
「俺は木兎さんとは正反対だから。どうあがいたって、あの人みたいにはなれない。あんなカリスマ性、俺にはありませんから」
やっぱり淡々と、赤葦は言う。苦しく、ないのか。赤葦の本心が見えなくて、俺は困惑してしまった。
思えば、彼の激情というものを、俺はほとんど目にしたことがない。強いて言えば、初めてキスを交わしたあの日、くらいだろうか。それでもどちらかというと際限なく求めてしまったのは、俺の方だったような気がするし。
いつだって変わらないように見えるのは、表情の変化が乏しいからか。声の抑揚も乏しいからなのか。
――それとも、俺が、赤葦をちゃんと見ようとしていないからか。
「……木兎さんとは違ってもさ。赤葦は、ちゃんと主将、やれてると思う。…木兎さんのこと気にするな、ってのは無理かもしれないけど……赤葦は赤葦なりの主将をやったらいいじゃないか」
俺の言葉に、赤葦の目がほんのちょっと丸くなった。そして美しく流れる様な眉が、くくっと中央に寄る。
「その言葉、そっくりお返しします」
言って、綺麗な眉はすぐに元の位置に戻った。またいつものあの気だるそうな顔で、赤葦は淡々と言うのだ。
「……縁下も、縁下なりの主将をやったらいいんですよ。誰のマネでもない、貴方自身の」
それは、分かってる。誰も大地さんみたいにやれ、なんて言ってない。求めてもいないと思う。頭では分かっているのに、そのはずなのに。
心が、ついてこないんだ。
それは、赤葦。お前も、同じじゃないのか。
「……っ、どうして、そんな涼しい顔をして言ってのけるんだ?それが簡単じゃないことは、お前も分かってるだろ?」
「涼しい顔に、見えますか。それは良かった。俺の真っ黒な部分は、貴方には見えていないんですね」
ひゅうっと、息を飲まざるを得なかった。目の前の赤葦は確かにいつもと同じ表情をしているのに、彼の背後から黒いオーラとでもいうのか、嫌などろりとしたものが立ち上っているように見えた。
俺は、赤葦の何を見ていたのだろう。
赤葦の、何を知っていたのだろう。