第4章 金木犀の香りを追って(BL)
「そこらへんは抜かりなーし!!」
えっへん、なんて声が聞こえてきそうなくらい木兎さんは胸を張っている。そんな木兎さんをそっけなくスルーして、赤葦は後ろにいたOBへと目を向けた。
「……あぁ、猿杙さん達がフォローして下さったんですね。ありがとうございます」
「へっ?! いやいや!! 俺がちゃんと監督に人数確認して買ってきたんだぞ!!?」
「それは……にわかには信じがたいですね……」
「あかーし酷い!!」
今でも交流があるのか、慣れた様子で梟谷の部員達はめいめいにOBと歓談を始めている。俺は回ってきた差し入れのアイスを受け取って、そっと体育館を出た。
キンキンに冷えたアイスを少しずつ頬張る。俺の横では西谷がいつものようにガリガリ君を二口で平らげてしまっていた。物食う時の西谷の口、ブラックホールみたいでつい観察してしまう。……どうやったら二口で、アイス食えるんだろう。
アイスのおかわりを求めて、西谷と田中が梟谷OBの元へ駆けて行く。俺はそんな2人の姿を眺めながら、またアイスを一口かじる。
「……やっぱさー、木兎さんみたいな人がいいよな」
アイスに没頭していた俺の耳に、そんな言葉が聞こえてきた。ちら、と確認すれば、梟谷の現役の部員達の姿がある。
「なんつーか、いるだけで元気湧くっていうかさ。赤葦さんも上手いけど、木兎さんみたいにガッと引っ張り上げてくれる感じじゃないし」
「分かる。もっとこう、ガンガンいってほしい時あるよな。やっぱカリスマだわ木兎さん」
俺は耳を疑った。そんなことを言う部員が、梟谷にいるなんて思っていなかったから。練習試合では赤葦を中心に綺麗にまとまっていたし、指示にも素直に従って、皆赤葦を信頼しているように見えていたのに。
何か言ってやろうかと、梟谷の部員へ近づこうとした時、ふいに後ろからぐいっと引っ張られて、俺は声をかけるタイミングを失ってしまった。
振り返れば、元気の無くなった癖っ毛を揺らして、赤葦が佇んでいた。
「赤葦……いいのか、言わせておいて」
「前から気付いていましたから。皆木兎さんみたいな人を望んでいるって」
淡々とした声で、赤葦は言う。なんで赤葦はそんなに平静な態度でいられるんだろう。