第4章 金木犀の香りを追って(BL)
「中旬に、夏祭りがあるそうです。そのお祭りで踊る、ダンスを練習しているみたいですね」
沈黙が怖いのか、赤葦は何かと口を開く。それなのに俺は、いまだ赤葦に本心を話すこともせずに、ただ校庭の園児を見つめていた。「何やってんだよ、ちゃんと目を見て話せよ!」 って、脳内の田中と西谷にど突かれた。そうだよな、いつまでも無言でいるわけには、いかないよな。
「……あのくらい小さい頃はさ、一生懸命やっていれば、それで良かったよな。ちょっと失敗しても、間違えても、『頑張ったね』って褒められてさ。……いつからかな。一生懸命やるだけじゃ足りなくて、そこに結果を求められるようになったのは」
がむしゃらにやるだけじゃ、もう駄目なんだ。目に見える結果を残さないと、評価なんてされない。
去年、先輩達と共に行った全国の舞台。
『落ちた強豪、飛べない烏』そんな不名誉な異名を打ち消すのに十分なほど、大地さんを始めとして、烏野は活躍を見せた。
けれど、その活躍は、次を期待される引き金にもなる。
新人戦も、インターハイも。俺は烏野の主将として、何か結果を残せているのだろうか。名前の通り『縁の下の力持ち』でいるだろうか。自信の持てないまま、季節はもう夏を迎えている。
「俺は、どうしたって大地さんにはなれない」
「…前も言っていましたね、そんなこと」
そうだ。確かに同じようなことを、俺は以前赤葦に話したことがある。次の主将を決める、前の日。前から皆に「次期主将は縁下だな」と言われていて、けれどずっと自信が持てなくて。俺はたまらず赤葦に相談したんだ。
赤葦も同じように次期主将になるのだと、聞いていたから。同じ境遇の赤葦だったら、余計に俺の気持ちを分かってくれると思って、話したんだ。
「…それは当たり前だと言ったじゃないですか。誰も澤村さんにはなれないんです」
「分かってる。でも、いまだに夢に見るんだ、あの背中を。大きくて安心感のある、あの背中を!」
『存分にやりなさいよ』
頼もしい大地さんの言動のひとつひとつを、いまも夢に見る。『存分にやれ』なんて言葉を言えるほど、自分に自信がない。去年よりかは実力はついたはずだ。けれど、全国で渡り合っていくにはまだどこか、何か足りない。
だから毎日練習に打ち込んでいるし、日々バレーのことばかり考えている。