第4章 金木犀の香りを追って(BL)
食事を終えて、俺は赤葦を避けるように食堂から逃げ出した。
けれど外で待ち構えていた赤葦が俺を捕まえて、人気のない空き教室へと引っ張って行った。
生徒のいない教室は烏野のそれと変わらないはずなのに、知らない世界みたいな雰囲気を感じた。
一番後ろの窓際の席に座るように促されて、俺は黙って従った。
目の前にどっかりと腰を落ち着けた赤葦は、じっと俺を見据えている。
「さぁ、話してもらうよ」
「話すったって、何を」
「もう誤魔化せないって言ってるでしょう。ずっと変だよ、縁下。……春高の後から、ずっと」
「……」
彼が気が付いてないはずは無かった。けれど今までそんなことおくびにも出さずに赤葦が接してくれていたから、俺はどこか期待してしまっていた。赤葦が俺の気持ちの変化に気が付いていないって。
そんな訳ないよな。減ってしまったメールも、出なかった電話も、よそよそしい態度も。全部気が付いて、それでもなんでもない風を装っていただけなんだよな。
俺が、赤葦にそうさせてしまっていたのに。
「…俺のことをもう好きで無くなったのなら、ちゃんと言って欲しい。でないと俺踏ん切りがつかないから」
「はぁ?!そんなワケないだろ!」
「じゃあ、なんで。……なんで、俺を避けているの?」
「そ、れは」
「俺が何か悪いことしたならハッキリ言って欲しい。自分なりに考えてみたけれど、思いつかなかったから。……気が付かないうちに貴方を傷つけていたのかな」
赤葦の声音が、とても寂しそうで。それに微かに震えているように聞こえて、ぐっと胸が苦しくなった。自分で勝手にへこんで傷ついて、そのうえ無言で赤葦を傷つけたのは、俺だ。俺が悪いんだ。
「赤葦は、悪くないんだ。……俺の独りよがりだよ」
そう言ったけれど、赤葦の目は見られないでいた。視線を窓の外に泳がせる。外に広がる校庭では、小さな子供達がダンスの練習をしていた。小さな手足を懸命に動かして、先生の指示に従う姿はとても可愛らしい。
俺が話をそこで断ち切ったようにみえたのか、気分を変えようと思ったのか、赤葦も黙って校庭の園児の姿に目をやる。
「……今年から、幼稚舎が出来たんです」
高校の校庭に、何故園児の姿があるのかと思えば。梟谷は私立だから、幼稚園から高校まで一貫教育をするというのも頷ける。