第4章 金木犀の香りを追って(BL)
「力、良かったなぁ。久しぶりに会うんだろ?」
練習前の柔軟中に、田中と西谷が満面の笑みで俺にそう問いかけてきた。この二人は俺と赤葦の関係をよく知っている。暑苦しく背中を押してくれたのも、この二人。
だからなのか俺が思う以上に、俺が赤葦に会えるのを楽しみにしていると思っているらしかった。
「あ、あぁ。まぁ、うん」
「なんだよー!今更照れなくてもいいじゃねぇか」
歯切れの悪い俺の返事を、田中は照れ隠しだと思ったらしい。好都合とばかりにその思い違いを利用して、俺は照れた風を装った。赤葦と微妙な関係だと二人にバレたら、相当面倒くさいことになりそうな気がしたから。
「お前ら悪ノリしてからかうからなぁ」
「そんなことしねぇよ。なぁ、ノヤっさん?」
「おうともよ、龍!」
嘘だ。ハッキリ顔に書いてあるじゃないか。
その輝きに満ちた目は、からかう気満々だろう、お前ら。
「ただちっとばかしイジるかもしれねぇけどよぉ」
「ほら。やっぱりな」
田中の言葉に呆れた顔を見せれば、田中と西谷は歯を見せてにししと笑った。
「きっつい合宿中の、ちょっとした楽しみってやつよ」
「…趣味悪いな、お前ら」
「なはは!」
「なはは!じゃねぇよ。俺はまだしも、赤葦に絡むなよ?他校に迷惑かけて今後一切付き合いお断り、合同合宿もご破算、なんてこと俺はごめんだからな。……まぁ三年にもなれば、いくらお前らでも言わなくても分かってるよな?」
努めて笑顔でそう言うと、田中と西谷の顔にどっと汗が浮かんだ。不自然にそらした視線は、あらぬところをさまよっている。これで二人に釘は刺せただろう。
柔軟を済ませて立ち上がった俺の元に、谷地さんが駆け寄ってきた。手にしたスケジュールが記された紙には、小さな可愛らしい丸っこい文字がいくつも書き込まれている。
練習が始まる前にいくつか確認事項を再度チェックして、彼女は自分の業務へと戻っていく。
谷地さんの傍らには、彼女と同じくらいの小柄な新しいマネージャーが、どこか所在なさげに佇んでいる。
去年は谷地さんが、そんな感じだったなぁと俺はどこか感慨深かった。
清水先輩の後を必死で追っている谷地さんの姿が、どこか懐かしい。