第16章 愛の言葉を聞かせて/天童覚
『今日は東京もいい天気だったの?』
送った言葉に返事はなかった。
その代わりにまた、写真が届く。
やっぱりまた青空の写真だったけれど、さっきより青空の面積は少なく、建物の屋根あたりまでが映っていた。
「…?? 青空の写真よっぽど気に入ったのかな」
なんてメッセージを送ろうか考えていると、またポンと写真が送られてきた。
そこに映っているのは青空と、隙間なく建てられたビル。
ビルといっても、東京でよく見かけるようなガラス張りのピカピカしたやつじゃない。白い外壁が美しいビルだ。
これは。
ハッとして顔を上げる。
写真に写るビルと、目の前の建物を見比べる。
「同じ、だ」
俺の目の前の建物と、ちゃんから送られてきた写真に映る建物が、同じ。
期待に胸は躍るのに、そんなことありえないと首を振る俺がいる。
ブルっとまたスマホが震えて、覗き込んだ画面には。
俺の後ろ姿をとらえた写真が映し出されていた。
首に巻いた赤いマフラーも、着ているコートも、今身に着けているものと全く同じだ。
…これは、まさに今撮られた写真に違いなかった。
「!」
勢いよく振り返ると、そこには東京にいるはずのちゃんの姿があった。
「会いに来ちゃった!!」
赤いサンタの帽子をかぶったちゃんが、満面の笑みでそこにいた。
じわじわと目の端が痛くなるのを感じながら、唇をかみしめて彼女の元に一目散に駆け寄った。
力いっぱい抱きしめると、その勢いでサンタの帽子が地面に落ちた。
夢みたいだけど夢じゃない。ちゃんとあったかい。
懐かしいちゃんのシャンプーの匂いもする。
抱きしめる力をこめると、同じようにぎゅっと返ってくる。
それが嬉しくて嬉しくてたまらない。
「ちょっと早いけど、クリスマスプレゼント! ビックリした?」
腕の中で、ちゃんがおどけた声で言う。
ビックリなんてもんじゃない。
キミは今、どれだけ俺が幸せをかみしめてるか分かってるのかな。
俺が今にも泣きそうなこと、気付いてないでしょ。
「…もしかして、怒ってる?」
さっきの言葉に返事をしなかったからか、今度はおそるおそるちゃんが聞いてきた。
首を振ってみせると、安心したようでため息をついている。