第16章 愛の言葉を聞かせて/天童覚
「キミって時々、俺の想像超えてくるよね」
「伊達に貴方の彼女やってませんから!」
どや顔で答えるのがおかしくて、声をあげて笑った。
こんな風に笑ったのいつぶりだろう。
「来るなら、言ってよ」
「ごめん! でも驚かせたくて。…ここ最近連絡おろそかにしててごめんね。早くフランス来たくて、バイトいっぱい入れてたから」
その言葉で、ちゃんがいつも眠たそうにしていた訳が分かった。
俺に会いにくるために、そんな苦労してたなんて……。
抱きしめる腕に、知らず力がこもる。
「無理、しないでって。いつも言ってたのに」
「電話口で寝ちゃったりして、覚くんに悪いなぁと思ったんだけどね……でもどうしても会いたかったから」
自分がひとり勝手に不安に駆られていたのが恥ずかしくなった。
目の前の彼女を信じられなくて何が彼氏だ。
少し前までの自分を殴りたい。
「…ありがとう。これ以上ないくらい、嬉しい」
「ふふ。良かった」
腕の中で猫のように頭をすりつけてくるちゃんが愛しくてたまらなかった。
抱きしめるだけじゃ足りない。どうしたらこの気持ちを彼女に伝えられるだろうか。
「…ていうかよく俺を見つけたね」
「ふふん! 実は覚くんがアパート出るとこから後をつけてたの!」
「マジで?! ぜんっぜん気付かなかった」
「やったね! 作戦大成功」
言ってピースサインを見せるちゃんが可愛くて仕方ない。
だけど俺ばっかりやれらっぱなしなのも癪だったから、何も言わずに唇を奪った。
半年ぶりに触れた赤く熟れた唇は、柔らかく吸い付いてくる。
音をたてて離れると、ちゃんの顔はみるみるうちに真っ赤になっていった。
想像していた通りの反応に笑ってしまう。
「ちょ、ちょっ! 覚くん、ここ、外」
「だいじょーぶ。ここはフランスだから」
「なっ…そ、そーいう、問題、違う!」
「アハハ!! ほんとテンパると語彙なくなるよね、ちゃん。…そういうとこ、高校の時から変わらないね」
「ごめんなさいね?! 成長してなくてっ」
「違うよ。変わってなくて、俺安心してるの」