第16章 愛の言葉を聞かせて/天童覚
フランスと日本の時差は8時間。
こっちが23時なら、東京は翌日の朝7時。
俺は俺で忙しかったけど、ちゃんはちゃんでゼミが始まったとかで忙しくしていた。
だからお互いに電話出来る時は限られていて、俺が寝る前、ちゃんが朝家を出るまでの短い時間に電話するのが常になっていった。
ラインでやり取りすることもあったけれど、反応が返ってくるタイミングがまちまちだったから、やっぱり電話が一番良かった。
ビデオ通話にすれば、お互いの顔も見えるし。
「おはよ、ちゃん」
『…おはよー…覚くん今日も元気だね』
「うん。めちゃくちゃ元気。ちゃんはえらく眠そうだけど、どったの」
『レポート書けなくて徹夜しちゃってさ』
あはは、と笑うちゃんの目の下にはくっきりとクマが浮かびあがっていた。
顔が見れて良かった。そうじゃなきゃちゃん徹夜したこと隠して無理しそうだし。
「無理しちゃダメだよ。寝ないと後々体に響くんだから」
『ん。気を付ける…ふぁ~…っ、ごめん』
大きなあくびが飛び出たちゃんも可愛い。
堪えきれずにあくびしてしまったのを申し訳なさそうに謝る姿も可愛い。
目をしょぼしょぼさせてるのも可愛いかったけど、体の方が心配だった。
「いーよ。今日はもう寝たら?」
『えっ、大丈夫だよ! 午前の授業休講になったから、この後仮眠するつもりだし』
「午後からは授業あるんでしょ? 少しでも睡眠とってた方がいいよ」
『でも、せっかく覚くんと電話出来る時間なのに』
「無理して体調崩す方が心配だし。また明日、元気な顔見せてよ」
『…うん、ありがとう。じゃあお言葉に甘えて寝よっかな。おやすみ、覚くん』
「おやすみ、ちゃん」
その日から、電話に出るちゃんは眠そうにしていることが多くなった。
『ゼミの先生、やたらと課題出してくるの。自分で選んだとはいえ、大変だよ…』
高校の時から真面目だったから、手を抜くことがないんだろう。必死に勉強してる姿が目に浮かぶ。
「そっかぁ。高校の勉強とはまた違った大変さがあるネ」
『うん、ほんとそう。…覚くんは? そっちでの勉強はどう?』
「ボチボチかな~やっぱりまだヒアリングがね~。今日も数字聞き間違えてさぁ」
『うんうん』